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6.


だからますます以ってわけがわからなくなる。
今尚王宮に住まうお姫様の元、近衛騎士として仕える日番谷と、もう間もなく帝国に嫁ぐお姫様を取り巻く噂は相も変わらず。引きも切らずで。
引き裂かれた『悲劇の恋人たち』として、王都を…国を賑わせている。
無論、噂はあたしの耳にも入って来るし、日番谷の目が、時々『あたし』ではない『誰か』を見ていることだって変わりはない。
けれどもそれが件のお姫様でないことに、薄々あたしは気が付いていて。
日番谷も日番谷で、幾らあたしが「ねえ、お姫様。結婚しちゃうけどほんとにいいの?」「今ならまだ間に合うかもよ?」と唆してみたところで、「興味ねえな」と一笑に付す。
あたしのくちびるを塞ごうとするばかりだったから。
「でも、あんたってばあのお姫様のことが好きだったんじゃあないの?」
何度しつこく問うたところで、
「そりゃあ、長年仕えていた御方だしな。当然、大事だったし大切だった」
そんな有耶無耶に誤魔化されてしまう。
「っでも!好きだからあんた、命を賭して『大国の魔女』の呪いを解いたんでしょう?あの子を助けたい一心で、あたしを…!…あた、し…を?」
紡ごうとして、突如遮断されてしまった記憶。
舌も、口も。
途端、痺れたように動かなくなる。


「おっと。そこから先は『立ち入り禁止』だ、松本」


いみふめいにもそう言って、その腕の中に抱き込まれてしまうから。
くちびるを塞がれ、ドレスを落とされ、理性の全てを奪われる。
ベッドの上で与えられる、熱と快楽とに意図も容易く『記憶』は混濁する。


「あいにく俺は、ガキの頃からお前のことが好きだったからな」


だからぜってえ死なせねえ。
もう二度と、誰にもやらねえ。
触れさせもしねえ。
殺させるようなこともねえ。
お前は全て忘れて、ただの女になって。
俺と共に生きて――死ね。
呪詛のように注ぎ込まれては、愛される。
心の奥深く、封印される。
…歪な、記憶。
知らず内に、塗り替えられてゆく真実。










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あきゅろす。
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