[携帯モード] [URL送信]
3.


なのに、あたしを選ぶの?
あたしでいいの?
ほんとにいいの?
あたしでなくちゃダメな理由って、いったい何?
――思い当たる節と云えば、ただひとつ。
以前よりお姫様に求婚していた、同盟国の若き皇帝の存在だ。
自身の正妃にと、強くお姫様を望んでいた。
皇帝である彼の人の元に嫁げば、今と何ら変わらぬ待遇で日々を送ることが出来、そればかりかいずれは国母としても敬われる。
更には両国の同盟も盤石となり、国防に大きく貢献することにもなるだろうから。
仮にそののち皇帝が、側妃を娶ろうが何人愛妾を作ろうが、正妃としてその足元が揺らぐようなことは決してない。
たった一代の子爵夫人に成り下がるよりも、余程華やかな表舞台を歩き続けるだろうことは明白で。
…だから、もしやお姫様のため?
お姫様の幸せを願って、自らの想いを殺してまで、身を引いたと云うことなのかしら?
そう考えて納得をする。
(うん。ありえない話じゃないかも)
だって日番谷ってば、あのお姫様のことを本当に大事にしてたんだもの。
大切に想っていたんだもの。
幾ら稀代の魔女の首を討ち取り、お姫様の命を救ったとは云え、元は平民。
しかも褒美にと与えられた爵位は子爵で、領地だってささやかなものでしかない。
きっと贅沢はさせてあげられない。
ならば、今と変わらぬ――否、ある意味今より豊かな生活を送れるであろう帝国の妃となる『道』を残して自ら身を引いた。
そう考えるのが妥当だろう。
実際あたしの他にもそう考えている人は少なく無くて。
これまた悲劇の英雄、稀代の悲恋…恋物語として、日番谷の名を世に知らしめることとなった。
差し詰めあたしはふたりの恋の噛ませ犬。
(若しくは当て馬?)
そんなところが妥当かしら。
だからどうせ名ばかりの妻、――せいぜいがお飾りの子爵夫人として傍に置かれるものと思っていたのだけれど。…だけれども。




「ねえ。忙しいのに別にいいのよ?そんな毎日ご機嫌伺いに顔なんて出してくれなくっても」
「俺が好きでやってるだけだ。気にすんな」


あたしが何度何を言ったところで日番谷は、褒賞として『あたし』を妻にと望んで以来、毎日と言っていいほどあたしの元へと顔を出す。
仕事を終えた、一日の終わりに。
時に、休憩時間の合間に。
我が主でもある『白き魔女』から婚姻の許しを得、それこそ共に領地へと旅立つその日まで。
こうしてあたしは、晴れて日番谷の妻と――今や悲劇の英雄と呼ばれる男の妻となったのだった。










[*前へ][次へ#]

4/25ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!