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3.



聞けばこの時の松本は、昼過ぎに「今から彼氏が来るから」と母親に家から追い出され、仕方なくブラブラと一人街に出たところで男に声をかけられたと云う。
することもなく、特に行く当てもなかった松本は、誘われるがままに暫くはその男とゲーセンやらカラオケやらで遊んでいたそうだがその内徐々に雲行きが怪しくなり、最終的には(お約束のように)ホテルに連れ込まれそうになったらしい。
それでもホテルに引き摺り込まれるその寸前、ようやく事態に気付いた松本は必死に抵抗し辛くも逃げ出してきたのだそうだ。…やっぱりコイツは『馬鹿』だと思った。
つか、そんな男にひょいひょいついて行くなよ!
そもそもホテル街に入った時点で気がつけよ!
つか、気付くだろ普通?!
…だが、それが松本にはわからないのだ。
自分がいかに危ない橋を渡っているのかを。街で声をかけてくる男が、ほぼ百パーセントの確率で身体目的の『ナンパ』であると云うことを。
この女は、これっぽっちも気付いちゃいねえのだ。
正直これ以上相手にしたくねえと思った。相手にすべきではないと思ったのだが…。
同じマンション・隣りの部屋に住んでいることもあり、松本とは朝晩しょっちゅう顔を合わせる。顔を合わせれば声をかけてくる。挙句、部屋に勝手に上がり込む。(しかもうちの親の居ない時を狙って、だ!)俺を自分の家へと引っ張り込む。仕舞いには男とイザコザがあれば俺に助けを求めてくる始末で、気付けば俺はすっかりアイツのペースに巻き込まれていた。
だからいい加減こんな事態には慣れっこになっていたつもりだった。が…それにしても。




「つーか、もっと下心のねえ真っ当な男選べよお前も、どうせなら!」
いったい何があったのか、凡その話を聞き終えた俺はさっきから頭痛が止まらない。
なんでも一昨日めでたく『彼氏』になったと云う件の男と、その男の連れ2人を交えて車で遊びに出かけたと云う帰り道、車中でうとうとしていたところをいきなり3人掛かりで襲われそうになったらしく、それこそ這う這うの体でここまで逃げ帰ってきたってんだから呆れるより他はねえだろう。
つーか、お前以外が全員『男』ってわかった時点で誘いを断れよ!バッカじゃねえの?そんなモンどう考えても襲われるに決まってんだろ!ほんとバッカじゃねえの?!
いったいコイツは何度痛い目に遭えば、男に対して『警戒心』てヤツを持つのだろうか?
ああ、なのに。
「だって…しょうがないじゃない。好きだ、って言われたら嬉しいし、優しくされたら…悪いひとには思えないじゃない」
と、しれっと抜かしやがる始末。
呆れてものも言えねえよ。
『優しくしてくれる人』イコール『悪い人じゃない』っつー図式からして既に間違ってるってことになんでコイツは気付かねえかなあ?それも、あれだけ痛い目見てて、だ。
ああ、頭が痛てえ。
「あのなあ…だからそれが『下心』だっつーんだよ!!何べん言ったらわかんだ、テメエは!!」
ガン!と床を拳で叩いて怒鳴りつけた。
なのに松本は「え?そうだったんだ?」って、さも今気付きましたみたいな顔して目を丸くするばかりだから、ますます頭痛は酷くなる一方。
(この女は…まるでわかっちゃいねえ。男に対する危機感ってモンすら持っちゃいねえ)
だいたい、だ。テメエの言う『優しい男』ってなんなんだ?!美辞麗句並べたてて綺麗ごと言って、ちやほやしてくれる男のことか?!暇潰しに遊んでくれる男のことか?!…違うだろ!
呆れる俺。
「ごめん」と項垂れ、肩を落とす松本と…。



否。
わかってんだ、本当は。




コイツがこうも『男』相手にゆるいのは、恐らく…大好きだったと云う父親に捨てられた寂しさゆえの反動だろう。
仕事とテメエの恋愛で手いっぱいで、松本のことなど歯牙にも掛けないと云う母親との確執が原因だろう、と。
その狭間で独りもがく松本は、見ていて実に危なっかしくて痛ましい。
だから、多分。
何度過ちを繰り返そうと俺がやめろと言い聞かせようと、それでも松本が声をかけてくる男達に簡単に身を委ねてしまう其れは、独りで居ることが寂しいからと…その寂しさを埋める為にと、松本が無意識に行っている『代償行為』に他ならないのだ。
それが俺にはわかるから、わかっているから。…だから。
どんなに振り回されても、どんなに腹が立っても苛ついたとしても、俺には縋りつくこの女を突き放すことが出来なかった。
そして、多分。
松本もそれに『本能』で気付いているのだろう。
俺が突き放せずにいると知っているから、いつだって最後には俺を頼るのだろう。
(それこそ、下手すりゃ俺のこと父親代わりか何かだと勘違いしてんじゃねえか?と疑うほどに)
それほどまでにこの女は、今、俺に依存し甘えているのだ。
まるで、小さな子供のように。
自分より幾らも年下の餓鬼である、この俺に…。







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あきゅろす。
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