[携帯モード] [URL送信]
6.


「嘘じゃねえんだな?ホントだな?!」
何度も何度も念押すように問い掛けられて、その度ごとにあたしも頷いて。
求められれば求められただけ、あたしも「好きよ」と繰り返す。
そうして新たに与えられるくちづけに、今以って実感は何ひとつ湧かない。
むしろ夢のようでもあった。
(だって、両想いだよ、両想い!これってばあたしの人生初の両想いだよ!!)
それも十余年もの長きに亘る片想いからの両想いだよ!
なんだそれ、いったいどんな奇跡ですか?!
降って湧いたようなこのミラクルに、とにもかくにもあたしは興奮しきってたから、
「っつーか、けどお前…確か男が居たんじゃなかったか?」
はたと我に返った後、不機嫌を微塵も隠そうとしない冬獅郎からの思い掛けない問いかけにも、当然の如く即答で以って答えていた。
「へ?ああ…そう云えば。…うん、でも別れるわよ、勿論よ!別にそんな、すっごく好きで付き合ってたとか云うんじゃないし」
てゆーか単にあんたを諦める為に付き合っていた、所詮はカタチばかりの彼氏でしたし?
ううん。彼氏と云うより、ボーイフレンド?お友達?
むしろそんな呼び方の方がしっくりくる、ぬるーいお付き合いしかしてませんし?
いやいやでもね、ちょっと待ってよ。
それ言ったらそもそもあたし、この件では一方的にあんたに責められる義理はないと思うのよ。うん。
「ふーん。なら、後でちゃんと連絡入れろよ。本命のオトコが出来た・ってな」
「それはいいけど。そーゆーあんたこそ、彼女いるんじゃないの?ちょっとお」
ギロリとばかりにねめつけたなら、尚も怪訝に眇められた翡翠の瞳。
およそ惚けているとは思えない、本気であたしの言葉の意味がわからないって顔をした。
「は?いねーし、そんなの。つか、お前以外の女なんかどうでもいいし」
「……じゃあ、前に一緒に帰ってた、黒髪の可愛い女の子は?」
「あ゛あ?!黒髪…って。…もしかして、桃か?」
「へっ?!」
突如出てきた良く知るその名に、一瞬間抜けな声が出る。
「桃…桃って、通り向こうの雛森さんちの桃ちゃん?」
「つーか、他にそれらしいのが思いつかねえ」
「うええええ!いつの間にあの子、中学生!?」
「アホか。俺の一コ上なんだから、とっくの昔に中学生だよ。しかも今年受験だっつーの!」
「ひえええええ!!」
驚くあたしにくつりと笑って、「なにお前、俺にカノジョがいるとでも思ったのかよ?」と。
意地悪くも問い掛けられて、返す言葉にうぐぐと詰まる。
「ッハ!自分こそ先にオトコ作っといて、やきもち妬くとか何様だお前」
「う…うっさい!てゆーか四つも年下の弟相手に、うかうか手なんて出せるわけないでしょが!」
だから仕方なくよ、と。
苦しい言い訳を盾にすれば、ふーんと鼻で笑ってまたくちびるを塞がれる。
思い出したように、ニットの中の手をもぞと動かす。










[*前へ][次へ#]

6/8ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!