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4.


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*


「ちょ…とーしろ…!?」
「気付いてねえんなら俺も見ない振りしてやれたけど、知ってたんだったら話は別だ」


そんな理不尽を口にして、あたしの喉へと歯を立てる。
鋭利な犬歯が、ひとつふたつと咬み跡を残す。
当然のこと、ギョッとした。
「わっ、ちょ…なんっってところに、あんた!!」
鋭い痛みの走った場所は、明らかに服では隠れそうもない、非常に目立つ位置だったから慌ててザッと青ざめる。
だってちょっと、どおおおおすんのよ。
見られたら何て言い訳すんの?
そんなあたしの抵抗虚しくこのバカは、尚もあたしの肌へと歯を立てる。
「っちょ…やめ、ふぎゃあああああ!!」
挙句、ニットの裾から入り込んだ手が、我が物顔にあたしの胸へと触れるではないか!
(ちょっとおおおおおお!!)
けれど悔しいことに、じたじたと暴れたところで歯は立たない。
(なんだこれ、なんだこれ、なんだこれええええ!)
この一瞬で『何』が起きた?
あの『嘘』の何が引き金になったのよう!
自問したところで答えは出ない。
頭は全く付いてかない。
いやそんなことよりも、先ずは押し留めようよ、あたし!
はっきりきっぱり突っ撥ねて、力の限り抵抗しようよ!
(…ああ、だけど)
弱ったことに、身体はまるで言うことを聞かない。
抱き締められて、抱き着かれて。
あまつさえその手で肌に触れられて、抗う気力が削がれてゆく。
押し当てられたくちびると、性急過ぎる荒々しいキスに、まるで頭は働かなくなる。
…むしろ歓喜で泣いてしまいそう。
折悪しく今日はエイプリルフールで。
春休みも真っ只中で。
当然のことながら、世は平日。
だからパパもママさんも、今日も今日とて朝から仕事で、家の中にはあたしとこの子のふたりっきりで。
夜になるまで誰にも見咎められる心配もない。
…そんな絶好の機会、みすみす逃すわけがねえだろが、と。
舌なめずりをしてあの子がわらう。
あたしの上へと乗り上げながら。
澄ましたような顔をして。
「お前が父さんの連れ子で、俺と一滴も血が繋がってねえのはとっくの昔に気付いてた」
乱れたあたしのニットの襟元に、年にそぐわぬ節くれ立った手を這わせ、ゆるゆると覗く肌を撫で上げながら至極楽しげにくつりと笑う。
「けど、お前は知らないもんだとばっか思ってたからな。『弟』に甘んじるより他ねえと思って我慢してたんだ」


――好きだと想いを打ち明けることも。
――無理矢理にでも、こうして手中に収めてしまうことも。


自嘲混じりに告げられた、不意打ちの言葉に思わず目を瞠る。









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あきゅろす。
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