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FUNKAFULL×2 A

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「…お腹、空いたあ」

宿の薄い布団にくたりと横たわる松本は、今にも死にそうな顔で色気なくひとこと呟くと、コロリと寝返りを打ち仰向けになった。
露わになった胸元には、せがまれて残した噛み痕がひとつ。
なかなかに目立つその痕は、恐らく死覇装からも容易に覗いて見えることだろう。
「知らねえぞ。ンな目立つ箇所にわざわざ痕残させやがって…」
フルと揺れるやわらかな肉の頂きを、ピンと指先で爪弾いた。
いいのよ、別にと言ってむくれていた松本が、その軽い衝撃に「あん」と艶めかしいこえを上げ鳴いた。
眦を赤く染め、きろりと甘く睨み付けてくる空色の瞳を往なして思う。
いやいや良くはねえだろ、と。
良かあねえだろとは思うものの…それがこのおんなの望みであれば、敢えて拒むような真似はしない。
(当然だ)
俺が残した小さな所有の証は、松本の白く肌理細やかな肌に良く映えた。
見下ろした先、口元がうっかり緩むのを堪えきれない程に。
真白い肌に、色鮮やかに浮かぶあかい華。
…眺めも気分も、確かに快適ではあった。

「なによう、その顔。ほーんとドSなんだから」

くすくすと笑いながら、腰元に絡みつくしなやかな腕。
ふわっふわの蜜色の髪を片手でくしゃりとかき撫ぜれば、松本が猫みてえに目を細め、きゅうと甘く喉を鳴らした。


「つか、漸く機嫌治ったみてえだな」
ニィと笑いかければ、松本は満面に笑みを浮かべて、「んふふ、日番谷のおかげよーう」と、おどけたように口にした。
だが、正直その言葉には首を捻った。
「別に俺は何にもしてねえだろが」
ただ、いつものように乞われるままに抱いただけ。
俺が松本にしたことと云えば、それだけのことだ。
だが松本はコロコロと笑うと。
「口直し兼消毒して貰ったもーん」と。
いみふめいに言うと、再び俺にくちづけを強請った。
「…消毒だあ?」
交わすくちづけの合間に訝しげに問うた俺に、「そうよ」と軽く肯定をして。
圧し掛かる身体。
眼前でふるりと揺れる、やわとしたふくらみに向けて舌を伸ばす。

「ほら、やたらしつこくつきまとって来る、鬱陶しい他隊の上官が居るって前にアンタに言ったじゃない?此処に来る前そいつにとっ捕まったのよう。あたしが四席で下手に逆らえないのを良いことに、無理やり肩抱いてくるわ、強引に迫ってくるわでいい加減ムシャクシャしたってだけよ。…当たってゴメン」

果たしてどう強引に迫られたのかまでは松本が口にすることはなかったが、先ほどから垣間見せるこのおんなの苛立った態度と様子と、何より「口直し兼消毒」と口走ったぐらいだ。
恐らくくちびるのひとつも奪われしたのだろう。
(…まあ、面白くねえっちゃあ面白くねえが)
だいたいその男、松本が俺と関係を持つ以前、正気を失うぐらい飲んで酔った勢いで一度だけ寝たってヤツじゃあねえか?
そんで激しく勘違いされて、すっげー迷惑したって言ってた野郎のことじゃあねえか?
しかも激しく勘違いした挙句、暫く松本の『男』面してたってえ野郎じゃあねえか?
「………。」
いやまあ、別にいいけどな。
何しろ俺とこうなる以前の話だ。
それを今更うだうだぐちぐちほじくり返すつもりはねえ。
それ聞いた時は「あーそうかよ、お前もえれえ馬鹿やったもんだな」と、呆れただけに過ぎねえけどな。
「………。」
けど、こうも情が移ってしまえば話は別だ。

(…全く以って面白くねえ)

「へぇ…」
素っ気ない相槌の裏に潜めた苦りと嫉妬と独占欲。
だがそんな俺のどす黒い腹の内に、このおんなが気付くことはない。
圧し掛かる肉感的な身体を抱き留めて、目の前にある華奢な鎖骨にくちびるを当てる。
そのまま舌を這わせて、ゆっくり胸元に向けて降下する。
擽ったいとむずがる胸のふくらみを、それからはくりと噛み付き、思いっきり強く吸い上げた。
「んなっ…?!」
一瞬またたく青い瞳。
白い肌の中央にあって、一際目立つ赤い華。
くっきりと刻み込まれた、独占の証。
「ちょっ…!さ、さすがにこれはないでしょう、アンタ!!」
愕然と松本が叫ぶ。
(そりゃあそうだ。コイツ独自のあの死覇装の着方では、どうあってもこの痕が隠れることはねえだろう)
だが、詫びるつもりは毛頭無い。

「ッハ!それ見りゃさすがにどんなに鈍い間抜け野郎でも、お前に『男』が居るって気付くぜ」
意気揚々と鼻を鳴らして「これでその勘違い野郎に付き纏われることもなくなるだろ。良かったじゃねえか」と、いけしゃあしゃあとのたまった俺に、「そっ、そりゃあまあそうかもしれないけども…」と幾分複雑そうな面持ちで、もごもごと同意をした松本は。
「でもアンタこれ…他のひと相手に何て言い訳したらいいのよう」って。
途方に暮れたように恨めしそうに漏らしたのだけど、そんなことまで知るもんか。
(幾ら相手が上級貴族の息子で上官ゆえに逆らえなくて、オマケに弾みとは云え一回同衾した野郎だからって、易々と俺以外の男にくちびる赦してんじゃねえよ。容易に肩なんて抱かしてんじゃねえよ)


そんなモン、どうあったって面白い筈があるわけねえ。



ぶすくれる俺を見下ろして、「おーい、もしもーし」と松本が呼ぶ。
眇めた横目でちらと見上げた先、覗き込んでくる松本の空色の瞳と視線がかち合った。
そして問い掛けられた。
それも単刀直入、に。
「ねえねえ、日番谷。もしかしてアンタ今、ものすっごーい機嫌悪かったりする?てゆーか、ぶっちゃけ…妬いてたりする?」
ちょこんと傾けられた首。
にんまりと弧を描く、ふっくらとしたあかいくちびる。
…まあ。あれだけあからさまに痕残しゃあ、普通嫌でも気付くよなあ。
面白くねえと思ってるのもバレるよなあ。
けれど素直に認めるのは輪を掛けて面白くないような気がして、「アホか」と素気無く一蹴してから俺は松本に向き直った。
お互い真正面に向き合ったまま、対峙する俺と、松本と。
「あらあ。でもコレ、さすがにどう考えても尋常じゃあないと思うんだけどなー」
それでも負けじと赤く痕の残った谷間付近を指差しながら、愉快そうに松本がわらう。
「っもー!日番谷ったら焼きもちなんか妬いちゃって、かーわいーんだからあ!」
からかうように言った松本に、激昂するでもなく殊更穏やかにフッと口元を歪めて嗤い返してから。

「バーカ。俺のモンに、『俺の』だっつーしるし残して何が悪い」

啖呵半分不遜な口調で言い切れば、一瞬呆気に取られたように呆けた松本は、だがすぐさま我に返ると「それもそうね!」と朗らかに笑い、ガキみてえにぴょこんと跳ねて飛びつくように俺の胸へと抱きついてきた。



「…で?飯は?お前、腹減ってんじゃあなかったのかよ」
「あー…、そうなんだけど。やっぱりもう少し後でもいいわ。今はもうちょっと日番谷とこうしていたい気分だし」
「おっま…知らねえぞ、マジで太っても」
「んもう!そう簡単には太らないわよ、失礼ねえ」

くすくすと笑いながら、乱れた敷布の上へと再び横たわる。
広がる金糸。
折り重なる影。


「やっぱり口直しが足りないみたいだから、もうちょっとだけ可愛がって」


小首を傾げて片目を瞑った松本の手が、するりと俺の背中を滑る。


(上等だ)
もとより異存などある筈もない。




end.


冬コミ後、KinKiコンに向かう電車の中で携帯からブログに投下した院生日番谷×乱菊コネタに大幅に加筆・完成したもの。(のつもり;)駄文に拍車が掛かってますが気にしない!(汗)
毎度捏造の嵐ですんません☆でもこんなロクデナシな院生日番谷も偶には居てもいんじゃね?みたいな…。まあ、そこは基本自己満サイトなので…ええ;;
あと今回『あなたのお気に召すままに』内の『おかしな恋人』にちょっとだけネタがリンクしているので、本をお持ちの方は「ああ…」程度にでも思って頂ければ(笑)


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あきゅろす。
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