[携帯モード] [URL送信]
6.


「あの…?」
湯を使いたいのだ、と。
口にし掛けて、再びくちびるを塞がれていた。
「っんう!?」
抗うように身を捩ったら、くちづけの合間に「いいから寝てろ」と詰られた。
「や…、でも。中に、まだ」
「んなこたあ、わかってる」
「わかっているんなら離してください」
早く中を洗わなくては、いつ孕むとも知れないのだ。
ゆえに女郎は、客との一儀を終えるごとに下湯を使う。
若しくは手水で残滓を掻き出す。
そんなことはわかっているだろうに、
「うるせえなあ。興醒めすんだよ。抱いてすぐ閨から出てくとか」
なんとも不満そうに口に出されて目を丸くする。
「や…、それは。遊女ですし」
「わーってるよ。けど、もう俺に身請けされる身だ。孕んで貰わなきゃ逆に困る」
困ると言って、抱きすくめられる。
温かな胸に。
その腕に。
まるで夢みたいだとおもった。
子を生すな、ではなく。
子を生せ、と。
言われたのはこれが初めてなのだから当然だ。


「子…ども。産めますかねえ?」
「そりゃ、産めんだろ。まだ二十一だ」


くつくつと笑う声が、酷く耳に心地良い。
そうして改めて思い知る。
この男の妻となり、もう二度と。
あのひとのことを思い出さない。――思い出せない。
今日を最後に、全てきっぱりと忘れることになるのだ、と。
これから先は、この男の傍で。この男と。
夫婦となって、共に生きてゆくことになるのだ…と。











[*前へ][次へ#]

14/15ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!