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永劫が淵 1


※『花が咲いたら鬼わたし』の過去日番谷と乱菊。
パラレル要素が強い上に、キャラ崩壊が著しいです。
また、こちらは遊郭ネタになりますので苦手な方はご注意を☆




――その男、は。
確かに上客ではあった。
たまにぶらりと楼を訪れては、朝まで床を共にする。
その際、決して大盤振る舞いをすることはない。
けれど、毎回台の物もそこそこにとり、落とす金は決して少なくはない。
況してや閨で酷い無体を強いられたこともなかったから、一夜限りの妻となり、契りを交わして床を共にする客としては、袖にするには惜しいだけの男ではあったのだ。




「なら、いい加減身請け話を受けたらどうだ?」
訥々、と。
口にした男の言葉に目を伏せる。
「それ…は、」
「お前が先に言ったんだろう。妾として囲われるつもりは毛頭無い。お内儀としてでなければ身請けされるつもりはねえってな」
だからお前を正式な妻として、うちに迎え入れると、尚も男は朴訥と云う。
――よもやこんなことになろうとは。
思いも寄らなかったと悔やんだところで後の祭りだ。
確かに、妓楼の客としては申し分ない。
この部屋でひと晩、恋愛遊戯に浸る相手としては充分過ぎる。
例え月の障りに訪れたとしても、この男であれば敢えて『振る』ような真似もしないだろう。
けれど、身請けとなれば話は別だ。
この見世を出て、この男だけのものとなる。…それは無理だ。
何故なら既に自分には、好いた男がいるのだから。
年季が明けたら一緒になろうと誓い合った男がいるのだから。
だからそれまでは、何としても身請けされるつもりはない。
そう誓って生きてきた。
あのひととの『約束』があったからこそ、好きでもない、惚れてもいない男を相手に身を委ねては精を受け、夜毎の苦行を今日まで乗り越えられたのだ。
それを…身請け?
それも、この男が?
御冗談を、と。
一笑に付したところで組み敷かれていた。床の上へと。
例え身体を繋げる時でも、決して荒ぶることのない瞳。
その、翡翠の瞳が熱を孕んであたしを貫く。
本気であると物語るから。
「っ、こんな女郎上がりの女をお内儀に、なんて。例え世間様が許しても、貴方様のお身内が納得されないのでは?」
ほんの僅かの皮肉を交えて問い掛けたなら、然して面白くもなさそうに、フンと鼻で笑ってその問い掛けごと一蹴された。
「安心しろ。あの家の実権を握ってんのは、今じゃ実質この俺だ。例えお前が内儀に納まったところで、誰にも文句は言わせねえ」
俺があの家を捨てればすぐにでも商いは傾くだろうよ、と。
とんでもないことを、喉を鳴らして男は言う。
だが、到底そんな言葉は信じられまい。
「日番屋と云えば、江戸随一の廻船問屋。そんな豪商があっさり傾くと?」
「ああ。傾くだろうな。何しろあの家をここまで立て直したのは、俺だからな」
「なっ…!」
にを、と。
続く筈の言葉は…けれど、一瞬にして飲み込まれる。
噛み付くようにくちびるを塞がれ、吸い上げられる。
その合間にも、空いた片手が胸元を這う。
着物の裾を肌蹴られる。
いつにも増して性急に求められたことに臆するあたしに、皮肉にもくと笑って見せて。
「そう悪い話でもねえと思うんだが、そうまで頑なに固辞するってこたあ、よもや…間夫でもいるのかお前」
極、至近距離。
見詰め合ったまま問い詰められて、ハッと息を呑む。
意図せず逸らしてしまった視線。
それがすべてを物語ってしまっていた。










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