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6.


「こんだけ傍に居て、俺に手え引かれてやっとの思いで歩いてるくせに、何が遠いだよ。手が届かねえだよ。意味わかんねえぞ」
「あい、すみません」
そーゆー意味じゃないんだけど。
そんな物理的な距離のことなど吐露したつもりは、まったく微塵もないのだけれど。
だけど今更言い訳するだけの気力もなくて、へらりと笑ってこの場を濁す。
詫びて終わりにしてしまえとばかりに、心にもない「ごめんなさい」を口にする。
それにまたたいちょが眉を顰めたのは、もしかしたら隊長もまたいつもとは違うこの距離感に、何とも云えない『違和感』を憶えたからなんだろうか。
「なんか…今日のお前、調子が狂う」
「そおですかー?」
「ああ。何かすっげえやりづれえ」
…って、それは今隊長が『基本』に忠実な、デフォルト隊長だからでは?
「は?何か言ったか?」
「いいえー」
にっこり笑って、うっかり漏れ出た心の声を誤魔化して。
更にはこれ以上そう簡単には漏れ出さぬようにと、心の奥深くきっちり埋め直してから封印を施す。
じとりと横目にねめつけてきた隊長は、けれどそれ以上追及するでなく。
そうかよと投げやりに流してまた前を向く。
あたしの手を引き、歩き出す。
あたしはそれを追い掛ける。

「…あたし」
「んあ?」
「そんなにいつもと違います?」
「まあ、な。今日はいつもほど喧しくねえしな」
「…それだけ?」
「おー。いつもはお前、好き好きうるせえしすぐ抱き着いて来るから鬱陶しいし。けど、そーゆーのねえだろ」
まあ、確かに。
「でも、そーゆー隊長だって、結構ツン発動中ですよね、今日は」
「ったり前だ。こんな夜更けにわざわざ迎えに出る俺の身にもなってみろ」
「ああ、京楽隊長から連絡が行っちゃったから」
「………」

ちらりと横目にあたしをねめつけて、けれど厭味は口にすることもなく、たいちょは再び前を向く。
無言であたしの前を行くから、これまた何とも珍しい。










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