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5.


「えー。大したことじゃないですよー」
「いい。気になるからさっさとゲロしろ」
「わあ。ゲロッて、たいちょきったなーい!」
「うっせ。いちいちお前は話を引っかき回すな。気になんだろが」

手を引かれたまま、前を行く、たいちょの後ろ姿に向かって話しかける。
あたしを振り返ることもないくせに、なーにが気になる・よ。嘘ばっかり。
ああ、それともこんな手なんて繋いじゃってるから間が持たないとか?
それともアレかな?
たいちょみたい…って、悪口言われたとでも思ってんのかしら、このひとってば。
(まあ、どっちでもいいんだけど)
別にね、ほんとに大したことじゃないんだから。
尚もきらめく星の運河を見上げながら、ぼそと口にする。
「お星様。きらきらピカピカ光ってて、たいちょみたいだなー…って」
思っただけですと小さく明かせば、倣うように夜空を見上げた隊長の、銀糸がさらりと揺れる。
目を、奪われる。
…綺麗。
月明かりに、星明かり。
受けて輝くたいちょの銀糸にですら、胸はときめく。心奪われる。
こんな時、結局あたしはどんな隊長だって大好きな、やっぱりこの『世界』の松本乱菊なんだなとおもう。
このひとのことが大好きで、大事で大切で無条件に懐いてしまう。
幾らだって傾倒する。
例えこのひとが他の誰を見ていようとも。
あたしのことを、例え手の掛かる部下としか認識していないとしても…。







*
*

「――星、ってガラじゃねえだろ。俺ァ」
目え悪いんじゃね?って、口調は相変わらず素っ気ない。
…うん。その素っ気なさ!
そーゆーところが、ね。なーんかたいちょにそっくりじゃない?
「そおおですかー?きらきらピカピカ眩しくて、こんなにはっきり見えるのに、実際手なんて届かない。遠いひとだなーってところが何処となく似てません?」
あと、冴え冴えとした冬のこの空気もどことなくたいちょに似てるかも…なんて思ったその時のことだ。
「何言ってんだ、お前」
訝しげに、眉根を寄せて。
どこかあたしを非難するように。
ゆっくりあたしを見据える翡翠の双眸。
射抜かれて、居心地の悪さに思わずそっと目を逸らす。
そんな態度もやっぱりいつもとあんまり違うから。
バカ言ってんな、って笑い飛ばしてくれるでなし。
況してやあたしの投げかける言葉に傷付いてだってくれない。
無論、あたしの情緒不安定を汲み取って、何も言わずに抱き締めてくれることもない。
ある意味とても新鮮でもあるその反応は、けれど決してあたしの心を浮足立たせるようなこともない。
結局のところこのひとを、ただ苛立たせてしまっただけ。











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あきゅろす。
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