[携帯モード] [URL送信]
TALK TO MYSELF 2



「おっ…前は。ほんとにどこでもすぐに盛るよなあ」
呆れる俺に、だが松本は「日番谷があんまり可愛いから悪いのよう」と、全く悪びれた様子もない。
「アイツらと呑むんだったら、こうして日番谷とぺたぺたしてた方がよっぽど楽しいし気持ちがいいもーん」
ああ、しまった・と。思った時には既に遅かった。
顔にこそ出ちゃあいねえがこのおんな、どうやらここに来た時点ですっかり出来上がっていたのだろう。
煽るようにカリリと耳たぶを齧られた。
「てか。ここ、寮だぜ?」
敢えて口に出して咎めてみるも、「なによう。それぐらい…結界張ればいいじゃない」と、にべもない。
そのぐらいアンタならお手のモンでしょ?って、くすくすと笑う松本は、いったいどこまで本気なのか。それとも単なる冗談なのか。
言い置いた隙を衝くように、するりと布団の中へと潜り込む。
そして放った一声。
「うわ。日番谷の布団、小っちゃ!」
「うるっせえよ」
即座に詰りはしたが、なんとなく…酔ったおんなをこのまま部屋から追い出す気にもなれなくて。
結局俺は言われるがまま、嘆息混じりに部屋に結界を張った。
これで『何』があっても、この女の声も霊圧も外に漏れることはないだろう。
「…やだ。今の本気にしたんだ?」
瞬く瞳を見下ろして、「当たり前だろ」と上に乗り上げる。
「据え膳みすみす見逃すような野暮な男でもねえからな」
不貞腐れたように口にすれば、にっこりと弧を描くあかいくちびる。
にゅと伸びた白い両腕が首裏へと絡みつき、そのまま抱き寄せられた。胸元に。



誕生日には、毎年雛森とばあちゃんが「おめでとう」って言葉と笑顔をくれた。
だけど5年前から祝ってくれるひとはばあちゃん一人になって、今年からは一人で過ごすことになった。筈、だった。
なのにどうしたことか突如松本が部屋に乗り込んできて、結局は女と同衾しながら『今日』と云う日を終えようとしているのだからわからねえもんだ。
つっても、この女がここに来たのは単なる偶然。
こうしてここに留まっているのも単なる気まぐれに過ぎないのだろうが…。
(それでも一人で過ごすよりはずっといい)
あまく艶のある吐息を耳いっぱいに注がれながら、そう思った。



*
*

「んー…、今から帰るのも面倒くさあい」
言って、ふあとでっかい欠伸を漏らしたおんなの髪を梳く。
見れば窓の外には雪がちらついていた。
(どうりで冷える筈だ)
腕の中。でっかい身体を小さく丸めた松本は、さむいさむいと言っては俺にひたりとくっ付いて、まるで離れようとはしない。
それでも恐らくあと半刻もすれば、脱ぎ散らかした死覇装に自ら袖を通してこの部屋を後にするのだろう。
「またね」って。
小さく笑って手を振って、しんしんと雪の降り積もる中、夜闇に姿を消すのだろう。
(まあ、そうそう居座られても困るんだが)
それでも、なんとなく。
なんとなく…まだ、離れがたいとも思っていた。だから。
「雪、降ってるし。今日はもうこのまま泊まってけ、お前。明日朝一で起こして送ってやる」
そう囁けば、松本はぱちくりと目を瞬かせてからふうわり微笑んだ。
「うわあ。珍しく日番谷が優しい!」と。
「テメエ…どうやら素っ裸で追い出されてえみてえだな」
凄んだ俺に、いえいえとーんでもないとくすくす笑った松本は、甘えるようにスリと頬を寄せてくる。
ふわふわとしたやわらかな金糸が酷くくすぐったい。
心地よい温もり、心地よい倦怠感に、思わず「くあ」と漏れ出る大きな欠伸。
熱を帯びたしっとりとした肌。おんなの身体を腕に、とろりと閉じてゆく己の瞼。
留めようもない勢いで、意識は睡魔に乗っ取られてゆく。
徐々に霞がかってゆく意識の向こうで松本が、ねえねえと呼びかける声が耳を打つ。


「ねえねえ、日番谷」
「んー?…ンだよ」
「そう云えばアンタって、名前『冬獅郎』よねえ?」
「おー」
「もしかしなくても『冬』生まれとか?」
その思いがけない問い掛けに、まあなと言葉を濁してもぞと女の胸元に顔を埋める。
とくとくと規則的に脈打つ鼓動が更に睡魔を駆り立てる。
「あ、やっぱりそうなんだ。じゃあ誕生日っていつなの?」
尚もぼそぼそと小声で問い掛け続ける松本に、もうとっくに終わったと素気無く告げてから「いい加減お前も寝れよ」と釘を刺す。
だがそんな釘など物ともせず、えー!と非難の声を上げた松本に、心の中で(つーか、嘘は言ってねえし)と言い訳をした。
何故なら松本に問われた時点で日付はとっくに21日へと変わっていたのだから。
「んもう、言ってくれたらお祝いぐらいしたげたのに…」
面白くないとばかりに零した松本は、やはり20日が俺の誕生日だとは知らないままにここに足を運んでいたらしい。
尤も、偶然にしては恐ろしく出来すぎている気がしないでもないが…。
「んじゃ、その気持ちだけ貰っておく」
再び「くあ」と大きな欠伸を漏らしながら、言って、今度こそ本当に目を閉じた。
間近に感じるおんなの吐息と温もりとに、いい加減眠気も限界だったのだ。
「じゃあじゃあ、来年はちゃんとお祝いしたげるからね!」
甘えるように口にした松本に、別にちゃんとした祝いなんていらねえんだけどなと思いつつ、お前来年もこんな餓鬼の傍に居る気かよとうっかり忍び笑いが漏れた。

そうして訪れた深いまどろみ。
穏やかな眠り。
次第薄れゆく意識の向こう、眠りにつくその間際。
やわらかく松本が微笑みながら、小さなこえで「おやすみ、日番谷」って。
「それから、ちょっと遅れちゃったみたいだけど…お誕生日おめでとう」って。
あまくやさしく囁く声を夢うつつの中遠く耳に残したままに、俺は意識を手放した。



end.


久々の更新がこんな駄文で何かもう本当にすんません!!><;
せっかく隊長の誕生日なんだし「何か更新したい!!」と云うしょーもない勢いだけで(今年も)書き上げたので非常に微妙です。うん、大丈夫。ちゃんと自分でわかってるから…orz  
まあまだ院生のお子ちゃま日番谷なので、「誕生日なんて、ケッ!」とか粋がったところでやっぱりちょっと寂しがったりしてたらよくね?ばあちゃんのこと恋しがったりしてたら可愛いんじゃね?と云う妄想が暴走したようです。
そんなわけで。隊長、今年もお誕生日おめでとございまーす!!そんで来年こそはもうちょっとまともなコネタを更新したいです;本当すんませ…(涙)
09.12/20 up

[*前へ][次へ#]

5/62ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!