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2.


あたしがたいちょのことで落ち込むたびに、思い悩むたびに、「何かありましたか?」と話を聞いてくれた。
例えあたしが酔ってぐだぐだになろうが泣き上戸に愚痴ろうが、励ましてくれたし慰めてもくれた。
時にあたしの目を覚まさせてくれたことだってあった。
そんな七緒の側の『事情』については、生憎この『世界』では滅多に語られることもなかったから、そう云うものだと思っていたのだ。いつの頃からか。
…でも、そんなわけはないのよね。
隊長のことであたしがうだうだぐるもだやってる間にも、当然七緒だって思うところは幾らもあったに違いないのだ。
(だって相手はあの京楽隊長だもんねえ?)
女好きで、お酒好き。
いかにも粋な遊び人って風貌の、海千山千経験豊富なおじさまだもの。
まだまだお子ちゃま、朴念仁なうちの隊長なんかの何十倍も厄介な相手であることに間違いはない。
きっとあたしなんかよりも、うんとやきもきさせられて来たに違いないのだ。
(なのに、羨ましい…なんて)
七緒の気持ちも知らないで、随分と勝手なことを言ってしまった。
身勝手な愚痴ばかり零してしまったと、今更ながらに思い知らされて胸中項垂れる。
「あ。たいちょ、お代…」
「もう立て替えて払ってある」
ったく、何で俺がこんなこと…とでも言いたげな顔が胸に痛いです。あい、すみません。
「ええ…っと、後でお支払いしますんで…」
「めんどくせえ。代わりに今度何か奢れ」
それでチャラにしてやる…って、嘆息混じりに言いながら、暖簾を潜って店を後にする。
おお、寒い!
まだまだ日中暖かいからと油断してたけど、やっぱり夜は冷え込むわね〜。
そろそろ襟巻きが無いと辛いなあと思いつつ、それとなく死覇装の合わせを寄せる。
そんな仕種を目に留めて、たいちょが一瞬目を瞠る。
「珍しい」
「寒いんですよう」
「ッハ!酔いも醒めてちょうどいいだろ」
…うん、冷たい!
こーゆー時こそデレッデレに甘やかしてくれる、溺愛大人たいちょー辺りにお迎えに来て頂きたかった!と、しみじみおもう。
こっそり溜息を吐きながら、前を行く白い羽織の後を追う。










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あきゅろす。
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