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溶かしたもしもを歩く 1


※読んで頭「??」になりそうな、パラレルのようなパラレルでないような…。
七緒ちゃんと松本で摩訶不思議駄文。





「七緒ってばいいわよね」
そう云って不貞腐れたのは、拗ねた顔をした乱菊さんだ。
どうやら既に酔いが回っているらしい。
何しろ何時になく目は潤んでいるし、白磁の肌はほんのり色を伴っている。
そうして飲み屋のテーブルの上には、空になったお銚子が。
既に何度か片付けられていると云うのに、尚も二本三本と転がっている。
「飲み過ぎですよ」
だから嘆息混じりにそっと諭せば、ひとの話を聞いているのかいないのか、絶世の美女は尚も杯を呷る。
ぷはーっ!とお酒臭い息を吐く。…嗚呼。
とことん残念な美女だこと!
けれど目の前の残念な美女は飽きもせず、「七緒はいいわよね。ズルイんだから」としつっこいので、しょうがない。
こうとなったら大人しく、話を聞いてあげるより他は無いのだ。
「…で。私の『何』がそんなにいいんですか?」
まったく以って意味はわからない。
そもそも私に、ひとからこうも羨まれるようなところなどあっただろうか?――いや、無い。
悲しいかな、こればかりは即答出来る。
何しろ私は顔立ちも地味なら、性格だってこの友人ほど気さくであるとは言い難い。
むしろ固いと言われる。…主に、自隊の隊長に・だが。
それに、どちらかと云えば外向的よりは内向的で、本の虫。
親しい友人と呼べる相手など、彼女以外に居る筈もない。
(同じ読書仲間の雛森さんとも大違いだわ…)
もっと砕けた性格、可愛らしい態度が取れる性格だったらまた話は違っていたのだろうか?と、何度思ったかもわからない。
況してや身体付きだって、どちらかと云えば薄い方。
ゆえに色香の類は皆無に等しく、誇れるものなど鬼道の腕を除いて他に無い。
そんな私の何を以って、乱菊さんはこうも私を羨むのだろう。
溜息半分促したものの、すっかり拗ねてしまったらしい目の前の美女は、尚もくちびるを尖らせたまま、そう簡単には口を割らない。
「話を振るだけ振ってお終いですか?」
「…そうじゃないわよ」
ムッと答えたものの、今尚どこか思案顔。
口にすることを戸惑っている。
だから、多分。
本当に彼女は今私を羨んでいるのであろうことが窺えて、どうしたって途方に暮れる。
首を傾げるよりも他は無い。
否、そもそもズルイと言われることからしてもうわけがわからないのだ。
だから困惑していると、それに気付いたように乱菊さんが「…ごめん」と小さく私に詫びた。
見るからにしょんぼりと項垂れたのだ。


「あたし、七緒と京楽隊長が羨ましいの…」


挙句そんなことをのたまうものだから、いったい何事なのかと思って訝りもしたのだけれど。
いざ話を聞けば何のことは無い。
自分の置かれた『立場』についての愚痴だったことに呆気に取られる。









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