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TALK TO MYSELF 1
※『Gotta find the way to go』の、院生日番谷×松本ネタに付き苦手な方は要注意☆設定に多少の矛盾があっても気にしない心の広い方向けです(w;


誕生日・なんて云ったところで、流魂街に住む俺達には然程意味なんてものはありはしない。
常と変わらぬ一日が始まり、終わりを迎えると云うだけのことだ。
そんな冷めた考え方をしていたガキの頃。
…それでも。
ばあちゃんと、雛森と。二人が交互に口にする「おめでとう」って言葉は、面映くもあったがやっぱりどこか嬉しくもあった。
だけど、5年前。
雛森が死神の学校に入ってからは、誕生日は俺とばあちゃんの二人だけで過ごすようになっていた。
「お誕生日おめでとう、シロちゃん!」
そう言って、朗らかに笑う雛森の姿は此処に無い。
それでも。
いつもと変わらぬ笑顔で「おめでとう、冬獅郎」と声をかけてくれるばあちゃんが居たから満たされていた。
例え一人、『家族』が欠けてしまったとしても。
ばあちゃんの掛けてくれるそのひとことだけで、俺には充分だったのだ。



だけど、今年。
俺はたった一人で『今日』と云う日を迎えている。
(だが、仕方ない)
あの家を出て、死神になるべく俺は瀞霊廷へと…統学院へと足を踏み入れたのだから。
学校が休みに入るのはまだ後一週間ほど先の話だ。
ゆえに雛森も居ない、ばあちゃんも居ない学生寮の部屋の中、たった独りで迎える12月20日。俺の誕生日。
これまでいつだって傍にばあちゃんと雛森が居た俺にとって、恐らくそれは、俺が尸魂界に来て以来初めてのことだった。
否。
だからって、別段それを『寂しい』などと思いはしない。
(そもそも流魂街出身の俺に、誕生日などあってないようなものなのだから当然だ)
それでも。
それでも、ほんの少しだけ…あの団欒の日々が恋しくもある。懐かしくもある。
…もしやこれが『ホームシック』ってヤツか?
ふと脳裏を過ぎったその思いつきに、だが「柄にもねえ」と思い直してくしゃりと髪を掻く。
と。
その時だった。


「あーん、日番谷あ!指、いった…いったあーい!!」


何とも情けねえ叫び声をあげながら突如窓から飛び込んできたでっかい黒い塊が、ぼふんと音を立て俺に抱きついたのは。
「どわあっ!!」
挙句、抱きつかれたその勢いで、そのまま畳へガツン!と頭を打ち付けたのは。
(つか、痛てえ)
「い…ってえのはこっちの方だ、ド阿呆!!」
怒鳴る俺に、だがお構いなしに黒い塊…否、松本は、右手の人差し指を俺に向けて突き立てると、「いたいいたい、もの・すっごーーく痛いの!!」と喚き散らす始末。
(つか、うるせえ)


言っとくが、ここは寮だ。それも男子寮だ。
当然『女』が居ていい筈がない。
一応一人部屋ではあるけれど、それでも上と右隣りには他のヤツらが寝起きしているのだ。
(生憎俺の部屋は1階の角部屋だった)
万が一にも部屋に女が居るのがバレて、大事にでもなったらさすがにマズイ。つか、面倒だ。
チッと舌打ちをした俺は、慌てて喚くおんなの口を塞ぐ。
ぎゃあぎゃあと喚くおんなのくちびるを塞ぎ、吐き出す言葉全て飲み込んだ。
「っふ、…うぐぐ!?」
一瞬目を白黒とさせた松本は、だがすぐに『くちづけられた』と悟るや否や、極・大人しく瞳を閉じると舌を絡ませ「ほうっ…」とあまい吐息を漏らした。
重ねたくちびる。
交わる唾液。
暫し互いの舌とくちづけとを楽しんだのち、「…で?何がどうしたって?」と、抑えた声で問い掛けた。
幾分落ち着いた様子の松本は、改めて俺の眼前に自身の右手人差し指を突き立てて見せると。
「突き指しちゃったみたいなのよう。すっごく痛いからなんとかしてえ〜〜」
と、べそを掻きながら訴えたから脱力した。


*
*

少しばかり腫れた指先に、鬼道での治療を施しながら、溜息をひとつ。
「あ。なによう、その溜息は!」
「なんでもねえから気にすんな」
呆れる俺に、松本はあからさまにぶうと剥れて見せた。
そんな松本の膨れっ面をこっそり見上げ、そう云やこの女今日は豪く酒くせえなと俺はひっそり眉を顰めた。
「この辺で呑んでたのか?」
淡々と問い掛けた俺に「…あ、うん。一角達とちょっとねえ」と、へらりと笑った松本に、ふうんと気のない相槌を打ってから再び目を伏せる。
この女のことだ、大方呑んで暴れた挙句、うっかり突き指でもしてここに駆け込んだってとこだろう。
つくづく手の掛かる女だと思う。
つくづく面倒な女だと思う。
だが、それでも。
例えそれがささやかな『偶然』だったとしても、このおんながこうして今、此処に…俺の傍らに居ることを、ほんの少しだけ喜んでもいたのだった。
このおんなの温かな霊圧・朗らかな笑顔が、燻った心を穏やかにする。
例えそれがほんの一瞬の邂逅であったとしても…。


「ほれ、治ったぜ」
「わーい!ありがと、日番谷!」
くぱくぱと確かめるように指を動かしてから、きゅうっと俺に抱きつくと。
「ほーんと、いい子ねアンタって。だーいすき!」って。
そのまま俺の額にその肉厚なくちびるを押し当てた。
常であればこのままコトに及ぶところなのだが、如何せん寮の自室であるだけにさすがにそれは躊躇われた。
それにこの女にしたって、大方呑んでる最中に少しばかり席を抜け出して来たってだけだろう。
だから。
「わーったから。指も治ったんだし、さっさと戻れって」
どうせツレが店で待ってんだろ?と、苦笑混じりにそっと肩を押し戻した。
だが松本はそんな俺をじっと見つめてから、何事かを逡巡するように「んー…」と唸り声をあげた。
「なんだよ、呑んでる最中に抜け出して来ただけなんじゃねえのか?」
何しろ時刻はまだ9時を少し回ったところなのだ。
このうわばみがこんな時間に『お開き』ってこたあ幾らなんでもねえだろう。
「あ、うん。実はそうなんだけど…」
何より松本自身があっさりそれを認めたのだから。
だが松本は、今尚この部屋を出て行こうとはしない。
ばかりか、俺から離れようともしない。
ちょこんと傾けられた白い首。
「…松本?」
訝しげに問い掛けた俺の声をスルーして、だが松本は徐ににんまり笑うと。
「やっぱり今日はもういいわ」って。
再び俺にくちづけてきたではないか。
「…って、オイ!」
押し留める間もなく広げられた床へと二人、縺れ合うように倒れ込む。
見上げた先。
覆い被さる松本の目は、既に情欲に色濃く染まり、鈍い光を放っていた。






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