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Gotta find the way to go 2



「こんなモン、四番隊で治して貰やあいいじゃねえか」
その為の後方支援の救護隊だろ?と訊ねたら、笑って松本は首を振った。
「もっと、こう…瀕死の傷とかってんならともかく、こーんな痣ぐらいで四番隊に駆け込んだら、それこそ腑抜け扱いされるのがオチよ」と。
無論、呆れて「阿呆か、テメエは!」と怒鳴ったのだが、松本は「しょうがないでしょー」とくちびるを尖らせ拗ねただけだった。
意地っ張りで、馬鹿なおんな。
(一生こんな気味悪リィ痣、首に残しとくつもりかよ)
だからと云って俺の知ったこっちゃあねえのだが、それはそれで勿体ねえなとも思った俺は、その日授業で習ったばかりの鬼道での治療をふと思い立ち試みてみることにした。
だがさすがに人目のある店内でこの痣を大っぴらに晒させるのも気が引けたので、部屋へと案内してもらったのだ。
尤も。
まあ、これで多少でも痣が目立たなくなればめっけもんかと思っただけなのだが…。


だが、初めてにしては治療は存外上手く行き、長いこと首に付いていたのだと云う醜い痣は、見事綺麗さっぱり消えてなくなった。
我ながら「よくまあ上手くいったもんだ」と驚きもしたのだが、どうやら松本に至っては豪く感激をしたらしく、礼だと言って突如くちづけて来たと思ったらそのまま床に押し倒されて乗り上げられていた。
唖然とする俺に、にんまり微笑んで。
「これからも宜しくね、日番谷!」って。
俺の上に跨ったまま、アイツは自身の死覇装を脱ぎ捨てた。
抵抗する間もないままに、俺の貞操は奪われていたのだ。この、女に。
そして今現在の『関係』にまで至るわけなのだが…。


その日以来、松本はずっとこんな調子で、怪我をすれば俺に治療をせびるようになり、ますます四番隊から足は遠退いた。
そうまで頼られてしまえば、俺も自然治癒霊力を上げるしかない。
(別に四番隊への配属を希望しているわけでもねえにも関わらず、だ)
ほとほと厄介な女にとっ掴まったものだと思う。
否、そう思わずにはいられない。
「日番谷あ」と。
俺の名を呼びながらすりと甘える女の細腰を嘆息混じりに抱き寄せて、その肉厚なくちびるを吸う。
そのまま、未だ血の匂いが立ち昇る肩口に舌を這わせてべろりと舐め上げる。
熱の篭った吐息と共に、ぶるりと松本の身体が大きく戦慄いたのを視界の隅に捉えた俺は、畳の上へとゆっくり松本を組み敷いた。


*
*

「お前、やっぱどっか他所へと移れよ。いい加減心配でしょうがねえ」
窮屈である筈のこの腕の中。
くったりと身を預ける女の薄い肩を抱き寄せながら、どうせ無駄なこととはわかっちゃいたが、それでも白い耳たぶに囁いてみる。
「…あのねえ、」
案の定、呆れたように溜息を吐いて。
「だーから、移動先もなけりゃあたしが入り込めるような席官の空きもないんだってば。無茶言わないでよう!」
ぶうと剥れた松本の身体には、肩と額以外にも俺の見慣れぬ傷が幾つもあって、抱いてる最中ずっと俺は眉を顰めていた。
「そもそも今空きがあるのなんて、隊長格のポストが一個だけ・なんだからね。どう考えてもあたしにはムリムリ!」
ンフフと妖艶に笑った後、「ね?」と小首を傾げて同意を求めた松本の言葉に、ふむと軽く顎をひと撫でしながら俺は思案を巡らせた。
…隊長格、ね。
そりゃあ確かに今のコイツの実力では到底叶わぬ役職だろう。
(けど、俺なら…?)
そんな不遜な閃きに、思わずニヤリと嗤いが漏れた。


「なあ」
「んー?」
「ちなみに空いてんのはどこの隊なんだ?」
「えー…、確かお隣の十番隊だったと思うけど?なあんかね、これと云った適任者が居ないって言って、ここ二十年くらい空いたまんまみたいよ」
なるほど。
「で、十番隊ってのはどんなヤツらが集まってんだ?」
「どんなヤツ…って。まあ、鼻持ちならない貴族の子息みたいなのは居ないんだけど、なーんか揃いも揃って気の弱そーな子達ばっかりの集団ってトコ?」
「へえ」
「まあ、なんたって比較対象がウチだから、あんまり当てになんないけどねえ」
「別に。お前が今居るとこよかマシならそれでいい」
「……てゆーか、なあに?アンタまさか、十番隊の隊長の椅子狙うつもりとか?」
「まあ、それも悪かねえかなと思ってな」
「あー…そおねー。アンタなら出来ないこともないかもねー」


キャラキャラと笑いながら、極自然と口にした肯定の言葉。
だがそれは決して厭味などでなく、素直に零れ落ちたこの女の『本音』であることを俺はちゃあんと知っている。
(いつだってそうなのだ、この女は)
穏やかに微笑む松本は、例えそれがどれほど馬鹿げた『夢物語』であったとしても、決して俺の言葉を否定することはない。
「アンタの実力はあたしが一番買ってるんだから、当然でしょ?」って。
軽快に笑う松本は、こうして何時だって新たな道を俺に指し示す。俺の背中を後押しする。

「…ん?なあに、どしたの?」
「や。すげーイイ女だと思って」
「ッハ!今更ねえ」

耳元でくすくすと笑う声がやけにくすぐったい。
首筋に感じる吐息に、ぞくりと甘い痺れが走る。


「じゃあ、早いところ十番隊の隊長になって、あたしのこと引き抜いて楽させてよね」


アンタの下なら平の隊士でもぜーんぜん構わないわよ・って、白い歯を見せて笑う松本に、「いいぜ」と頷きくちづけを落とす。


松本との何気ない会話の中で不意に思い描いたのは、途方もない未来予想図。
(俺が隊長で、コイツが副隊長…とか?)
尤も。
さすがに口に出したら笑われそうで、今はまだ…松本にも伝えるつもりはないけれど。




end.


これ実は『あなたのお気に召すままに』と云うコピー本の没ネタなんですけども(笑)←お持ちの方は「ああ!」って感じかもしれませんが^^; こんな院生日番谷まずあり得ねえ!と思いつつ、ちょっと書いてみたかったんです。ただそれだけなんです。
松本の為に十番隊長目指す日番谷が居たっていいじゃない!と云う妄想と捏造の産物ってことで、設定に無理アリ過ぎとかそーゆー苦情はナシで是非ともお願いします(笑)そして読み返しも殆どしてねえ…orz

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あきゅろす。
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