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Gotta find the way to go 1



常々思っていたことなのだが、この女は実に生傷が絶えない。
明日は非番だと云うから、じゃあ飯でも一緒に食いに行くかと瀞霊廷の外れにあるこの呑み屋で待ち合わせをしていたのだが、待ち合わせた時間から一刻ほど遅れて現れたアイツは、にこやかに笑いながらも白い額からだらだらと血を流していたので愕然とした。
お世辞にも広いとは云えない店内に急速に広がってゆく噎せるような血のにおい。
「テッメエ…せめて手当てぐらいしてから店入って来い!!」
慌てて勘定を済ませ、女の腕を引っ掴んで店の外へと駆け出した。
が、指先に感じるぬるりとした嫌な感触に、もしやと思い手元を見れば、掴んだ腕にもべっとりと血がついていてまた驚いた。
聞けば、終業間際に駆り出された流魂街での虚退治で、相当手こずったらしい。
「それがまた嫌あな戦い方するヤツらでさあ、一緒に駆り出された他の子達もみーんなこんなモンよ」
わははと豪快に笑う女は、出血の割に傷は然程深くないのだとも言うのだが…。
「お前は、アホか?!」
「あ。ひっど…!それが『日番谷との待ち合わせに遅れちゃうー!!』って、怪我も放って慌てて駆けつけた恋人に向けてかける言葉あ?」
ぷうと剥れる女に、ひとつ深い溜息を吐いて。
こんな血生臭い格好をした女と一緒では今更外で飯を食うどころではないだろうと潔く諦めた俺は、この馬鹿女…もとい、十一番隊四席・松本乱菊を自室まで送り届けることにした。



「うう…ご飯〜〜」
「うるせ。大人しく諦めろ」
途中立ち寄った店で弁当を2つと、つまみを幾つか買い込んで(どうせ酒はコイツの部屋に腐るほどあるのだ)、十一番隊舎近くにある松本の私室へと帰り着く。
(さすがに女一人で他の荒くれ野郎共と寝食共にするのもどうかと、松本は隊舎外に部屋を借りて住んでいた)
まだほかほかの弁当を、涎を垂らさんばかりに恨めしそうに眺める女を追い立てて、先ずは額の血を洗い流させた。
それから血糊でべったりの死覇装と襦袢とを脱ぐよう言った。
露になる白い肢体。
明かりの元に晒された乳房。
だが、欲情してる場合じゃねえ。
「うわ。これまた酷でえやられ方してんなあ」
肩の辺りを鎌のようなものでざっくり斬られているではないか。
「あー…、ちょーっと油断しちゃったのよう」
「なんにでも楽観的なのはお前の長所でもあるが、戦闘に於いてはおもくそ弱点だよなそれ」
「うるさいなあ。でも、ちゃあんとぶった斬って始末して来たんだから、結果オーライってヤツでしょ?」
「どうせなら無傷で帰れよ、テメエは」
「だーかーら、見かけほど大した傷じゃないんだってば!それに一角に貰った血止めの軟膏塗ったから、出血だってほぼ止まってるしね」
ケロリとした顔で言いながら、濡らした手拭いでこびりついた血を拭き取ってゆく松本の肩の傷は、確かに出血は治まっちゃいたがこのままでは痕が残ることは必至だった。
(つか。男ならともかく、女だろうがテメエは!)
そこんとこ、わかっているのかいないのか…。
ハアッと嘆息しながらも、「しょうがねえなあ。腕出せ、腕」と、手を伸ばす。
そんなぞんざいな俺の命令に、けれどにんまりと笑った松本は「はーい」と朗らかに返事をすると、存外大人しく怪我した腕を俺へと向けて差し出した。
本当は。
あんまり得意じゃねえんだけどな・と思いながら、鬼道で傷を塞いでゆく。
「あ。綺麗になった、なった!」
「うし。次はデコだ、デコ」
「あーい」
ハラリと前髪を除けて、目を閉じて。
にっこり笑って俺の前に畏まって座った口元に、軽くくちづけを落としてから額の傷口に手のひらを翳した。
じとりとねめつけられたのに気付いちゃいたが、素知らぬ顔でシカトする。
「…ちょっとお。今の『チュッ』は、何の治療よ?」
「あー?切れてたんだよ、くちびるも」
「ハァ!?嘘ばっかり!」
言って。
くすくすと笑った松本が、甘えるようにぎゅうっと腰にしがみついてくる。
それも上半身を露にしたままに、だ。
幾ら見慣れた女の裸とは云え、こうも密着されては落ち着かない。


「つか、何か羽織れよお前」
「えー。やあよう、どうせまたすぐ脱ぐことになるんだから面倒じゃない」
「…誰も今日ヤルたあ言ってねえ」
「へ?何よう、それじゃあ今日は何もナシ?」
「ンな血生臭せえ女相手に勃つかよ」
「うわっ、可愛くなーい!」
「可愛くなくて結構」
「……ほんっと可愛くないわね、アンタ」
「っだあ!!」


ぶーたれた松本に、えいっ・と勢いを付けて押し倒されていた、畳の上。
ばかりか、思いっきり後頭部を床へとぶつけ思わず「ってえ…」と呻いたその隙に、くちびるを強く吸い上げられて上へと乗り上げられていた。
(ああ、まったく…しょうがねえなあ)

楽しげに、キラキラと光る青い瞳。
圧し掛かる艶めかしい女の身体。
扇情的な白い肢体。
その身体のあちらこちらに残る刀傷と、青痣・と。
至るところに見られる内出血。
治せるところは可能な限り俺が治してやったが、それでも時間の経過を待つより他にない傷跡の方が多いぐらいだ。
(せっかく綺麗な肌してんのにな)
勿体ねえなあと思う。



*
*

十一番隊は喧嘩っ早い荒くれ者揃いの所謂『ケンカ集団』で、当然女相手にも容赦無い。
そんな十一番隊に回される任務は、比較的荒っぽい…それこそ時には死を伴うような厄介な仕事が殆どなのだと風の噂に聞いたことがある。
(そりゃあ傷だらけにもなるよなあ)
だから、と云うわけではないが。
他所の隊へ移ればいいんじゃねえの?と瀞霊廷で再会した際、飯を食いながら提案してみたのだが。
予想通りと云うべきか、笑って「無理よう」と即座に否定された。
「あたしみたいに頭悪くてろくに鬼道も使えない、腕っぷしだけが取り柄の女、他に使ってくれる隊なんてないわよ」
それこそ此処と十二番隊以外にはね!と、冗談混じりに言って抱きついてきた女の白い首筋には、まるでとぐろを巻かれたような…不気味な青黒い痕がくっきり残されていたのだった。
初めて流魂街でコイツに出会ったあの時、首に巻かれていた白いスカーフ。
アレは、虚との戦いで付いたこの醜い痣を隠す為のものだったのだと、この時初めて俺は知ったのだった。






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あきゅろす。
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