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贅沢な孤独 2



それは時間にして僅か15分足らずの邂逅。
1日24時間の内の、ほんの…たったの15分。
店を出たあたしは、後はもう、重い足取りで誰一人待つことの無いアパートへと向かうばかり。
また、明日。
あの子に会えるまでの24時間を、首を長くして待ち侘びるばかり。
(だってあのコンビニ以外にあの子とあたしの間に接点なんて無い)
そういえば、確か2人共『空座一高』に通ってるって言っていたけど。
それも、2年だって言っていたけど。
(だからあの子はあたしより最低7つは年下な筈だ)

――7つ!

ああ、絶対無理!
どう考えても絶望的!
こんな7つも年上の女、どう考えても年若いあの子が見向きもするわけないじゃない!!
だいたいあの顔だもの、ぜーったい可愛い彼女がいるに決まってるわよ。
てゆーか、いない筈がない。
(あーあ)
思わずガックリと項垂れていた。
だから、いいんだ。
あの子はあたしの『癒し』なのよ!
日々の仕事に疲れた、あたしの癒し!
そう思い直して、買ったばかりのいちごプリンに思いを馳せたその時だった。

「松本さん!」
「…へ?」

聞きなれた声に条件反射の如く振り向いたあたしは思わず仰天した。
「とっ…とーしろーくん!?」
コンビニの制服を着たままの日番谷少年が、あたしを追って駆けて来るではないか!
「んなっ…!ど、どうしたの?!」
コンビニからここまで、優に500メートルはあるだろうに…。
ハァハァと、息を切らせて全力疾走で駆けてきた日番谷少年に、どうしたって胸は高鳴ってしまう。
(まさか告白…とかじゃあないわよね?!)
いやでもそんな筈無いってことぐらいわかってるのよ?!
そりゃあそうよ、だってあたし、7つも年上だもの!
(でもやっぱり…期待とかって、しちゃうじゃない?!もしかして、って。思っちゃうじゃない?!)
ああ、だけど。
予想通りだったんだけど、やっぱりそれはあたしの杞憂で終わってしまった。
「はい、これ」と。
目の前に差し出されたのは、プラスティックの小さなデザートスプーン、で。
「ごめん、入れ忘れてることに気がついた」
…って。
一瞬にして目の前が暗くなった。
(ああ、だから期待なんてしなきゃ良かったのよう、あたし!)
うん、まあそうよね。
そんなモンよね。
そりゃあ当然そういうオチよね。
ゆえに、心の中ではそりゃあもう思いっきり落胆していたんだけど。
はっきり言ってものっそいガッカリしていたんだけど。
それでもそんな様子はおくびにも出さず、あたしは努めて冷静を装う。
(ああ…)


*
*

「ね。もしかしてこれだけの為にあたしのこと、わざわざ追いかけて来てくれたの?」
「…ん。まあ、いらないかもしれないけど、コレ入れ忘れたことで万が一にも松本サンが気分でも害して、もう店に来てくれなくなったらヤだし…」

そう言って。
はにかんだ日番谷少年に、あたしはうっかり泣きそうになった。
…わかってる。
これはお客様相手のリップサービスに他ならないって。
それでも、やっぱり…あたしのこころは揺さぶられてしまった。
ぐらぐら、と。
差し出されたプラスティックのデザートスプーン。
手に取る瞬間、ほんの一瞬だけ指先が触れて。
ドクンと大きく鼓動が跳ねた。
…切なくて。
癒しでいい、なんて口では言ったけど、やっぱり無理だなあ。
好き、みたい。
この子のことが。
だから。

「ありがとう、とーしろーくん」

にっこり笑って、それから手のひらのスプーンを握り締めた。
そうして、決めた。
このスプーンは使わないで大事取っておこう、って。
ああ、でも待って。
そうよ、これだけは言わせてもらわなくっちゃ。
「けど。別にこんなスプーン1本忘れたぐらいで、あの店に行くのやめたりなんてしないわよー、あたし」
そこまで心狭い女じゃないわよ、と。
ほんのちょっぴり刺を交えて突いたら、そりゃあそうかもしれないけれどと日番谷少年は小さく前置いて。

「…でも、もしこれで松本サンに会えなくなったらつまんねえし」

ボソリと告げられたそのひと言に、じんわりと心が満たされる。
冷えた心に火が点る。
…好きだ、と。
(いっそここで告げてしまおうか?)
銀色の髪を見下ろしながら、一瞬そんな思いが脳裏を過ぎりもしたのだけれど。
それでもやっぱり…躊躇が勝ったそのせいか、言葉は詰まってしまったかのように、何ひとつ出てはこなかった。




「あ、じゃあ俺…そろそろ店に戻るんで」
「あ…うん。わざわざごめんね、ありがとう」
「こっちこそすんません、おやすみなさい」


ペコリと頭を下げて遠ざかってゆく後姿。
コンビニの中に見えなくなるまであたしは、その小柄な背中をいつまでもいつまでも見送っていた。




end.


随分前にブログに投下したパラレルコネタなので、中にはご存知の方もいらっしゃるかなと思いますが、今更ながらに完成したのでアプしてみた次第です(笑)
DDRのローソン店長な隊長とお客の松本に悶えて出来たネタなので、どんだけ前だよ!って感じなのですが…orz 
需要はともかく、いつか完成させたいぜー!と思っていたお話なので、書いた本人的には非常に満足しておりますです、すみません(笑)

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