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4.


「ね、苦しくないの?」
「苦しくねえ。つーか、落ち着く」


そう言って。
その腕の中にあたしを捕えて、目を閉じる。
長い睫毛と鼻筋の通った綺麗な顔立ちを、あたしは何とも言えない面持ちでそっと見上げて溜息を吐く。

「…苦しいのか?」
「てゆーか、痛いのよ。オッパイが」

何しろぎゅうぎゅうに抱き締められているものだから、オッパイが押し潰されて、ちょっぴり痛い。

「ね。もうちょっとだけ、腕…緩めて?」
「嫌だ」

だけどあっさり拒否された。
それも即答だったから、あたしは返す言葉も見つからなかった。
そうして尚もきつく抱き締められる。
細く逞しいこの腕に。
けれど痛みを訴えることは叶わなかった。
「いっ…た…!」
口にしかけたところで、塞がれていた。
荒々しいくちづけで以って。
痛みと熱とに浮かされた、滲む視界の向こうで艶やかに笑う。
あの子が…わらう。
「と…しろ…?」
掠れたこの声さえも飲み込んで。


「逃げられると思うなよ」


艶のある声が。
あたしの目を。耳を、支配する。




*
*

「退路はいらねえ。今更他の女も欲しかねえ。お前が何を血迷ってんのかは知らねえが、この先の人生も俺はお前以外の女を必要としねえ。そんでお前を手放してやるつもりもねえ」

痛みと甘美。
指先に込められた力が、あたしのからだに緩やかな跡を残す。

「この先の人生…って。アンタまだ十六になったばかりでしょうが」
「正確には、十六と六ヶ月と十二日な」
「…屁理屈」
「うるせえ。好きだっつッてんだろ」

ぶすくれたように告げられて、今度こそあたしは口ごもる。
見透かされていた驚きよりも、尚深く胸を抉る真っ直ぐな言葉。
射抜かれて何も言えなくなる。

「ガキの頃から何べん言わせりゃわかんだよ、テメエは。そんな器用に他の女に目ェ向けられるぐらいだったら、とっくの昔に目移りしてる。端っからお前みてえな面倒くせえ女、わざわざ選んで好きになんてならねえよ」

畳み掛けるように、容赦無く。
酷く直截的な言葉で以って、尚もあたしを追い詰める。
そうして極至近距離にある大きな翡翠に囚われて、思わずあたしは息を呑んだ。

―煽ったのはお前だろう?

薄いくちびるが紡いだ非難の言葉。
眇めた眼差し。
乾く喉。

―他の女も目に入らないぐらい、ガキの俺を狂わせたのはお前じゃねえか。

尚も紡がれる非難の数々に、あたしは何も言えなくなる。
何ひとつ抵抗出来なくなる。




「口で何と言おうと言い訳しようと、俺を他の女にむざむざ渡すつもりも手離すつもりもねえんだろ?」




容赦無く突きつけられた、目を逸らしてきた真意の数々。
真っ直ぐな瞳に問い掛けられて、言葉は容易く真実を刻む。
それが事実であることを認めるよりも他はない。
悟ってあたしは項垂れた。
(ああ、そうよ。聡い子だったのよ、本当にこの子は)
痛いぐらいに抱き締められて、離してと願うその裏で、本当はこの拘束を…束縛を、誰よりも望んでいたのはあたしだった。
まだ幼いこの子が決して離れて行かないように。
あたしから離れて行けないように。
願っていたのも、仕向けたのも、結局のところ全部あたしだった。
ずっと想い焦がれてきたこの子に、他の女に心を移してなんて欲しくなくって、いつだって縛りつけてきたのもあたしだった。
先へ先へと先走ろうとするあの子の望みを逆に手引きして、こうなるように仕向けたのも…きっとあたしに違いない。
やがて訪れるであろう破綻を恐れて距離を置いたのも、決してあの子の為なんかじゃなくて。
二人の間にほんのちょっとの距離を置くことで、まだ年若いあの子があたしとあたしの身体に更なる執着を抱くことさえきっと、無意識の内の計算だったに違いない。
後悔をする振りをして、本当はいつだってあたしだけを想っていて欲しかったから。
離れてなんて行かせたくはなかったから。
…だから。

「可愛くないわよねえ、ホント。昔っからアンタって子は」

今更どう取り繕ったところで無意味である、と。
悟って溜息混じりに腕を伸ばす。
そのまま滑らかなあの子の背中を抱き返したなら、「大好きよ」って。
その胸の中で小さくひとこと零して告げた。

「他の子になんて絶対あげない。アンタはずうっとあたしの可愛い大事な弟で、何ものにも代え難い…この世で一番愛しい男よ」


これで満足?とばかりに上目遣いに問い掛けたなら、目を眇めて笑ったあの子が「良く出来ました」とあたしを抱き締め、そのくちびるでそっとあたしの額に触れた。




end.


相も変わらず、なんじゃこりゃあああ!!!なパラレルネタですみません。最早日乱と呼んでもいいものか、書いてる本人にもわかりませんが日乱ですと言い張りますよー。
そんな感じで義姉弟でのラブの攻防ですが、書きたかったのは甘さではなくむしろ背徳に溺れる二人だったり駆け引きだったり歪みだったり後ろめたさゆえの焦燥だったりするのですんません。
あとは、松本好き過ぎてちょっと狂い気味の日番谷とか…?(w; まあ、余り深く考えずちょっとしたお遊びとでも思って頂ければ;;(逃)

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