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15.


…いや、けど。童貞…って。
いやまあ、実際そうなんだが。
決して間違っちゃあいないんだが。
それにしたって、普通言うか?
それもそんなあっけらかんと。
本人目の前にして。あけすけに。
だが松本は元からそう云う女であるとわかっていたので、呆気に取られはしても、敢えて腹を立てることもない。
むしろ笑ってこんな男の我がままを受け入れてくれる、好きにさせてくれる、すげえ器のでっけえイイ女なのは嫌ってぐらいにわかっているのだ。本当は。
そうして「でもねえ、さすがにうちでやるのは後始末が面倒だから」と松本に誘われるまま、再び足を運んだラブホの風呂場で事に至った。
――その、結果。
「なっ…!わ、真っ赤だぞ、オイ!」
「だーから最初に言ったでしょーが」
事を終えて、改めて下肢に目をやって。
予想以上の惨事に至ったことにうろたえる俺に、呆れたとばかりに松本がでっかい溜息を吐いたのは言うまでもない。
(なんかもうマジでサイテーだな、俺)
さすがに青ざめ反省しきりの俺に、まあまあしょうがないわよ、と。
笑って流してくれた、嘗ての苦い記憶が不意に脳裏に蘇る。
恐らくそんな俺の回顧ですらも、最早お見通しなのだろう。
尚もくすくすと愉快気に笑う目の前の松本に、苦々しさは隠せない。
(ああもう、懲りたも懲りた。反省しきりだよ、バカヤロー)
だから当然、そんな無理を強いるつもりなど今の俺には毛頭無い。
けど、だからって。
イコール会う必要がないって考え方もどうなんだ!?
つーかそれじゃあまるで俺がお前の身体目当てに会いたがってるだけみたいじゃねえかと憤りかけて、…だが、一瞬にして冷えた頭。
ばつの悪さに再び逸らした視線。
(否、強ち間違いとも言い切れねえか)
「ん?どしたの、日番谷」
なによう、急に黙りこくっちゃって、と。
笑ってズイと縮められた距離。
不意に顔を覗き込まれて、その勢いと余りの距離の近さに僅かに慄く。
「やあねえ、幾らあたしでもさすがにこんなところでキスなんてしないわよー!」
暢気にもカラカラと笑う女に、
「っっだから、そう云うことをここで言うんじゃねえ!!」
時と場所を弁えやがれと怒鳴りつけてから、はあと吐き出した深い息。
っとに、あけすけにも程がある。
――けど、さっきまで感じていた、苛立ち。憤りからのばつの悪さは今のですっかり消え失せてしまった。
きっとあのままであれば、ふたりきりのこの場所で俺は、酷く居た堪れない気持ちに苛まれていたに違いない。
ばかりか、後ろめたさにひとり、松本の前から逃げ出していたやもしれない。
(どうせデスクに戻ったところで、また顔を突き合わせることになるだけだってのに)
となれば、今以上に気まずい思いに苛まれるのは必至だ。
…けど、何と云うか、そうさせない『空気』が松本にはある。
仕事上は別として、性格は適当。概ね大雑把。
時にあけすけで目を覆いたくなるようなこともしばしばだけど、そんなところに救われてもいる。
むしろ助けられている。
(だから離れられずにいるんだろうか…)
罪悪感を抱きながらも。
後ろめたさを感じながらも。
傍に居たい。
傍に居て欲しい。
笑いかけていて欲しい。
そんな勝手を願ってしまうのだろうか。









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