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14.


「それとも何だよ、お前の方こそ用でもあんのか?」
重ねて問えば、ふるふると首を横に振る。
「そうじゃないけど。…でも、いいの?うちに来たって出来ないわよ、あたし」
何が、とは言わずとも。
今の会話の流れで、言いたいことは充分通じる。だから余計に腹が立つ。
「構わねえよ、別に!つーか、幾ら何でもそこまでがっついてねえし、」
「…ああ。それに、懲りた?」
「っっ!!」
くすと笑った松本に、間髪入れずに図星を指されて、逃げるように逸らした視線。
(つーか、まだ憶えてやがるかよ!)
なんとも情けねえ話ではあるのだが、随分以前に一度。
まだ三日目だと云う松本を、それこそ我慢が効かずに無理やり説き伏せ、抱いたことがあったのである。
偶然なのか、はたまた単にタイミングが良かっただけなのか、それまでそんな生理の真っ只中に週末の逢瀬が重なることがなかったことと。
その前の週末は、松本が法事で実家に帰っていたこと。
翌週には初の出張と滅多にない休日出勤が重なったこともあり、どうにも抑えが効かなかったのだ。
「そうは言うけど、三日目とかって結構悲惨だし、正直あんまり気が進まないのよねえ…」
更にはそんな松本の何気ないひと言に、カッと頭に血が上った。
俺よか三つ年上で、しかもこの美貌。このスタイルだ。
当然過去付き合った男は幾らもいて、それなりに場数をこなしているだろうことは想像に難くない。
(そもそも俺とこうなったのだって、元はと云えば松本の方から誘ってきたからだしな)
まだ暑さの厳しい九月も半ばに残暑払いと銘打って開かれた、部署の人間が集まっての飲み会の席。
つつがなく二次会を終えての現地解散のその後で、たまたま向かう駅の方角が一緒だったこともあり、ふたりきりで帰路を辿った――その最中。
ふと交わった視線。
どちらからともなく重ねたくちびる。
寄って行こうかと誘われたホテル。
戸惑いながらもあの時俺が応じたのは、半ば自棄にも等しい。
そんなひっでえ始まり方をしたぐらいには、男の扱いに慣れている。
つまりは過去に『今』と同じ状況に陥ったことがあり、実際その悲惨な状況とやらを経験したと云うことなのだろう。…他の男と。
――そう、他の男と・だ。
それが酷く面白くなくて、だからゴネた。
三日目だって関係ねえし、気にしねえ。
どうしてもやりたい。やらせろ、と。
(今考えてもロクなもんじゃねえな)
だがそれに松本は苦笑を浮かべると、
「あーもう、わかったわかった。わかったわよ」
良く考えたらあんた、ついこないだまで童貞だったんだものね、と。
笑って両腕を広げてくれた。
しょうがないなあと、俺の我がままに応じてくれたのだった。










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