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11.


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「う…。マジ、すんません」
「あはは、いいわよう別に。それに、飲ませちゃったのはあたしだしね。まあ、落ち着くまでゆっくりしてって」

休みは一日潰れちゃうかもだけど、と軽口混じりにからかえば、何とも苦り切った顔ですんませんともう一度詫びて。
再びベッドの中深く潜り込んだ日番谷の二日酔いが治ったのは、時計の針が夕方六時を過ぎて間もなくのことだ。
「ね、ご飯食べるー?」
おうどん茹でるつもりなんだけどどうする?って起こしたあたしの声に呼応するように、薄っすら開いた翡翠の瞳。
ぼうやりあたしを捉えて、のっそり身体を起こした日番谷は、漸くアルコールが抜けたのか、いただきますと存外しっかりとした声で答えたのだった。
先ずはスポーツドリンクで喉の渇きを潤してもらって、その間におうどんを用意する。
「卵焼きも作ったんだけど、食べる?」
「…うす」
空のペットボトルを片手にのそりと台所に顔を出した日番谷の好物は、大根おろしを添えた卵焼きだ。
食べて貰えるかどうかはわからないけれど、念の為にと用意しておいて良かったな…なんて思いながら、日番谷に手渡す。
茹で上がったおうどんをどんぶりに移して、おつゆを注ぐ。
あらかじめ茹でておいたほうれん草とかまぼこ、薬味のネギだけと云う、実にシンプル(手抜きとは言わない)なおうどんの完成である。
そうして昨夜のお酒と肴の代わりに、今度はおうどんの入ったどんぶりをふたつテーブルに並べてふたり膝を突き付けて、ズルズルと啜る傍らそれとなく問うたのだ。
昨日のことは憶えているか、と。
極力さりげなさを装って切り出した先、ちゅるんとうどんを啜った日番谷は、いつものようにぎゅっと眉根を寄せると、
「…いえ、まったく」
俺、何かしましたかね?と戦々恐々切り返してきたことから、どうやらまったく憶えていないようだとの確信を得たと云うわけだ。
(そっか。憶えてないのか、全然)
それでも昨夜、結構しつこくあたしを抱いたことだけは辛うじて記憶に残っていたようなので。
あー、今日はいつになく腰が重いな、痛いなあと嘯けば、ザッと顔色を変えて労わってくれちゃう辺り、なんとゆーか…やっぱり憎めなかったりもする。
ばかりか、今日の詫びだと言って甲斐甲斐しくも食器を洗って、台所を片付けて。
更にはお風呂まで洗ってくれちゃうんだから、本当に…もう!
そのくせ昨夜あたしに吐露した本命のカノジョのことなんて、おくびも匂わせないし、そもそもそんなことがあったことだって忘れてる。
なーんにも憶えてないんだもん。
それでいて態度はいつも通り。
それこそこっちが拍子抜けする程には、夕べのことがわかる前のまま、変わらぬままにあたしの傍らに在る。
――だから。
だから、もういいかな?って。
心の中に本命のカノジョがいるけど、それだってどうせ日番谷の片想いだし。
しかも結婚前提のお付き合いしてるみたいだし。
どうせこの先手も足も出せない相手なんだから、あたしを代わりに傍に置く。
これまで通りにこの先も、あたしだけを抱いてくれるんだったらもういいかな…って、腹を括った。
(だってどうせあんただって、今あたしを手放す気なんてないんでしょ?)








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