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8.


「う、わっ!?」
コップをテーブルに戻した途端日番谷に、ぐいと腰を抱き寄せられたのだ。
それも結構な勢いで。
「なあ。帰れ…とか、マジで言ってんの?」
そうして抱き締められた腕の中、豪く据わった瞳で射抜かれる。
ちょっぴり呂律の回らない舌で、色っぽくも上目使いに問い詰められて、キュンとした胸。…可愛い、なんて。
だからそーゆーことを言ってる場合じゃないって、あたし!
「いやいや。だって日番谷あんた、いるんでしょ他に好きな子が。だったらマズイでしょ、ヤバイでしょ。あたしとこんなことしてる場合じゃないでしょが!」
だから、おしまい。サヨウナラ。
また来週から職場の同僚としてよろしくね、って遠巻きに『終わり』を示唆したら、ムッと眉間に刻まれた皺。
如何にも不機嫌ですって顔が子どもみたいだ。
…なによう、普段仏頂面しか見せない癖に。
こーゆー時に限ってそんな顔して見せるとか卑怯だ。反則だ。
幾ら酔った頭でまともに反論ひとつ出来ないからって、こんないきなりくちづけてくるとか、すっごいすっごいズルイとおもう。
「俺、嫌いじゃねえよ。あんたのこと」
あまつさえ拗ねたみたいに、そゆこと言っちゃうとか、ほんと卑怯。
うん、でもそおでしょうねえ。
別にあんたにキラワレてるとか、思ってないし。あたしだって。
けど、どおおお考えても、好きとはちがうでしょーが。
ラブじゃないでしょ、ライクでしょ。
親愛って意味の「嫌いじゃねえ」でしょ、わかってんだからね!
腹いせに、ぺちんとおでこを叩いてみせるも、酔った日番谷はまるで意に介さない。
尚も喉元に舌を這わせる始末だ。ちょっと、待てええええ!
わあもう、ヤダって言ってんのに、そんなガッツリ噛み付かないでよ、首筋に。
だから見えるところに痕残すなって言ってんでしょが!
「あ、たし、他に本命がいる男とこーゆーことする気ないから。そこまで尻軽なつもりもないからっ」
そりゃ、酔った勢いで欲情しちゃって、先にホテルに誘ったのってあたしなんだけど。
でも、他に本命がいるって知ってたら、ずえーーっったいにそんなバカな真似なんてしてなかった。
若しくは一度で終わらせてたわよ。
所詮それですらただの『言い訳』でしかないと知りながら、それでも拒む。
自分自身を正当化する。
そんなあたしのズルさを見抜いているのかそうでないのか、わからないけれど日番谷が嗤う。
「…けど、フラレてんすよ。とっくに、俺」
どうせ俺のもんにはなんねえし。
俺なんて弟みてえなもんだし…って、ほんっっと卑屈な男だなあ!
「わっかんないじゃない、そんなの。今からだって、ダメ元で告ってみたらいいじゃないよ」
若しくは実力行使のひとつにでも、打って出てたら良かったのよ。
もっと早くに振られた弱みに付け込んでたなら良かったんじゃない。
今こうして思いっきり、あたしに付け込んでるんだからあんた、出来ないこともなかったでしょ!
そんな今にも捨てられそうなわんこみたいな顔してあたしの上に乗り上げて、終わりになんてしたくねえし…とか駄々捏ねて。
縋る振りしながら、ちゃっかりひとの服ひん剥いてくれてんじゃない。
あたしが教えた通りの手順で、肌に触れて、くちづけて。
教えてもいない手管で以って落としに掛かる。
あーやべえ、すげえ…気持ちいいわ・って。
明かりも落とさない部屋の中、日番谷の手でぐずぐずに流されてゆくあたしを目で犯す。
いつになくやらしい顔で、舌なめずりをして見せるから。
…ああもう、いっそ好きにして。
そんな風に、自らこの身を投げ出したくなるぐらいの熱情をありったけに注がれて。
意地も虚勢も、ぽっきり折れた。
しょうがないなあ…って思ってしまったから。
愚かにも自ら腕を伸ばして、抗うことも諦めて。
――結局、この夜。
あたしは再び日番谷に、身体を明け渡してしまったのだった。









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