[携帯モード] [URL送信]
7.


でもどっちにしろ、そんなのってバカにしてる。
しかも三つも年下の癖に。
それも、つい三ヶ月前まで女も知らない童貞だったのに。
ムッとした勢い余ってもう一度、ビシッ!とはたいてやった銀色の頭。
「う゛…。いってえ…」
「痛くしてんのよ。てゆーか、起きて!こんなところで寝られても困るんだからね」
一応暖房だって効いてるし、さすがに風邪を引くようなこともないと思うけれども、だからってこのままここに放置もしておけない。
てゆーか他に『本命』がいる以上、そもそもあたしに泊めてやるだけの義理もない。
終電だってまだあるんだし、とにかくさっさと帰って頂かねば。
「ほら、早く起きなさいって!終電逃したらタクシーよ、あんた」
そしたら家まで幾ら掛かると思ってんのと身体を揺すれば、渋々と云った態でのそりと起き上がる。
寝ぼけ眼にボサボサの髪。
よっぽど酔いが回っているのか、顔は赤いし、目までもちょっぴり充血している。
…うーん、この子こんなでちゃんと電車で帰れんのかしら?と疑念を抱く傍から、ぐらと大きく傾いた身体に、ゲッ!と思って手を伸ばす。
(うん、ダメだこれ)
これで電車乗って帰れって、さすがに鬼だわ。無理あり過ぎだわ。
酔わすつもりで飲ませはしたけど、さすがに加減に失敗したなと反省しつつ、ひと先ず台所へと向かうべく席を立ち、お水を一杯汲んで来てあげる。
「ほら、飲みなさい」
こんなもんで酔いが覚めるとも思わないけど、飲まないよりはマシだろうなと思って差し出したお水。
だけど日番谷ときたら、起きてるんだか目え開けたまま寝てるんだか、ぼーっとしちゃって自分ひとりで持てそうもない。
てゆか、焦点合ってないな。どう見てもこれ。
あーもう、コップも満足に持てないのか、あんたは。
ほんとどんだけお酒に弱いのよ。
営業職だってのに、こんなんで接待なんて出来んのかしらね、この子。
そんな呆れ混じりの吐息と共に、…しょうがない。
「ほら、口開ける!」
口元までコップを近づけてやって傾ける。
こんなところでお水零されたら堪らないからね!って言い訳を盾に距離を縮めて、寄り添って。
やっぱりツキンと痛んでしまった胸。
(うう…、こんな筈じゃあなかったのにな)
普段から口数少ない日番谷のことだから、ただ単に、言葉にするのが下手なだけ。
好きだ…って、面と向かって言えないだけなんだろうな、なんて。
暢気に構えていた自分が恨めしい。
だから酔ったら本音が聞けるかしら?なんて。
浅はかにも考えて、宅飲みなんて企んだのだ。…ほんと、バカ。
おかげで情熱的な『愛の告白』を聞かせて貰えるどころか、パンドラの箱を開けちゃった気分よ。
それも、希望ひとつも残らない、絶望ばかりが詰まったパンドラの箱…。
開けたら最後、別れるより他ないってちょっとあんまりだ。
うっかり視界が緩みかけた先、コップの水をようやっと飲み終えた日番谷が、酒精混じりにほうと息を吐く。
だから我に返って、慌てて距離を置こうとして。
――だけど結局叶わなかった。










[*前へ][次へ#]

8/83ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!