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6.


四日に亘って熱にうなされ、まどろみの中、夢に見て。
明くる今日。
邂逅を果たし、くちづけを交わすに至って、永年深層意識の底へと押し込まれていた…失われていた『過去の記憶』は、粗方形を蘇らせた。
――嘗ても男はあたしの夫であった。
――嘗てもあたしはこの男の妻だったのだ。
それこそ今生に生を受ける、その前の生から…繰り返し、ずっと。
止め処無く繰り返されてきた、宿命と運命。
それは云わば、男のもたらす執着の為せる『因縁』であり『業』でもあった。
輪廻の輪の中繰り返される、数多の別れと邂逅と。
ランダムに選ばれる筈の縁と絆をこの男は、蘇る先々でその手で以って、全て捻じ曲げ説き伏せて。
全て『あたし』へと繋げて来たのだ。
その計り知れない執着で以って。
繰り返される輪廻の果てに手に入れた、その摩訶不思議な『力』で以って。
そうして思い知る。
あの熱に浮かされたまどろみの中、あたしを抱いたあの男達は、やはりたった『ひとり』であり、その全てがこの男であったのだ、と。
「もしかして。あたしの夫となる筈だったあのひとを、この屋敷から追い出したのも貴方の仕業?」
ふと思いついて問うたとろこで、極あっさりと肯定をされた。
…当たり前だ、と。
「何が悲しくてお前を『義姉さん』なんて呼ばなきゃならねえ」
嘲笑うように告げながら、器用に服を脱がしてゆく。
露になったその肌に、歓喜で以って歯を立てる。
「お前は俺の女だろう?」
例えどの時代に生れ落ちようと。
新たに生を手に入れようと。
「お前は俺のものだろう?」
囁く声に、思い知らされては湧き上がる。
嘗て感じた愛おしい気持ちを。
諦めにも似た虚しさを。

「でも、助かった。前みてえに花魁なんかになられてた日にゃあ、さすがにこのナリじゃ手も足も出せねえとこだった」
「あら、懐かしい。彼是百五十年は昔の話ですか?」
「ああ、あの時のお前は吉原の大見世の花魁で、しかも他に情夫なんざ作りやがって。ちっとも俺に堕ちやしねえ」
「しょうがないでしょう。年季が明けたら一緒になる約束をしていたんですもの、あのひととは。それを随分と姑息な手をお遣いになって、無理矢理のように振り向かせたんじゃありませんか」

正直、あの時のことは二度と思い出したくもない。










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あきゅろす。
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