4.
そう思って青ざめたあたしをその場へと残し、今や正式に『義母』と『義父』となった当主夫妻はそそくさと部屋を後にした。
――そうして、ふたり。
取り残された、部屋の中。
互い、見つめ合って。対峙をして。
けれど隙を衝くかのように、突然強く腕を引かれて、くちづけられる。
その突然のくちづけに、けれど抗うようなマネはしない。
だからと言って、目を閉じるようなこともない。
それは相対する少年も同じで、くちづけを交わす、…極・至近距離。
あたし達は絡めた視線を逸らすことなく、くちづけの最中にあって互い見据え合っていたのだった。
やがて、ゆるやかに弧を描く薄いくちびる。
「変わらねえなあ、そう云うとこも」
「…それは、あなたも同じでしょう?」
今、この瞬間。
初めて顔を合わせたふたりであると云うのに。
今、この瞬間までは、全くの他人であったふたりなのに。
口にする言葉は酷くぞんざいで、むしろ砕けすぎている節すらある。
だが、それすらも当然だった。
今のくちづけで、…触れられたことで。
更に『記憶』は鮮明となった。
ばかりか、夢も現も曖昧になる。
――また、会えたな。乱菊・と。
囁く声に、呼応するように。
舌先に乗せる。
つい今し方、初めて耳にしたばかりの『夫』の名前を。
けれど、懐かしいばかりのその名を紡ぐ。
…冬獅郎様、と。
舌に馴染んだ響きで以って。
自虐を篭めた諦念で以って。
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