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3.


そうしておよそ四日に亘り寝込んだのち、漸く熱も下がって床上げをしたばかりの夜のことだ。
部屋を訪れた当主夫妻から、唐突なまでに切り出された。
この屋敷に仕えていた女中と共に失踪をした長男を、然るべき手段を以って勘当した、と。
代わりに次男をこの家の嫡男として据えることが決まった、と。
そうして新たに時期当主となった次男の『正妻』として、あたしを迎えることにしたのだと。
夫無きままに嫁いだあたしの身の振りを、改めて突きつけられたのだった。
さて、この措置に異存はあるかね?と。
威圧的とも思える声音で有無を問われて、迷うことなく首を振る。
…そんなものがある筈もない。
もとよりこの結論を、あたし如きが断れる筈もない。
そうしてその慈悲深いまでの申し出を受け入れたその足で、件の『次男』の元へと急かすように案内された。
新たな『夫』に引き合わされて、驚愕とした。


――否。
『全て』を思い出したのだった。


相対するその先に居た男。
銀糸に緑眼。
あからさまに値踏みするかのようにあたしへと向けて一瞥をくれたその『男』は、高熱にうなされ続けたこの四日間。
ずっとあたしが夢に見てきた『男』そのものだったのだから。






*
*


「アンタが松本乱菊、か?」

問うた男は年若く、恐らくまだ…年の頃は十五にもなっていないのではないかと思われた。
まだ、少年の域を出ない小柄な体躯。
丸みを帯びた幼い面差し。
華奢な手足に『謀られた』ことを知る。
次男の妻にと話を持ちかけられたその時は、よもや新たな夫がこれほどまでに年若いとは思わなかった。
だから迷うことなく了承をした。
『妻』と云う肩書きを欲したのだ。
(なのに、これは…)
傍目にも、到底見目が釣り合うとは思えない。
こんな子供と結婚なんて、正直…正気の沙汰とは思えない。
戸惑わない筈もない。
だからと言って、話が違うと今更喚き立てようとも思わない。
何しろ時期当主の『妻』としての座は、当初の契約通り、この手の内に与えられたのだ。
…ただ単に、相手が挿げ替わったと云うだけの話だ。
六つ年上の夫の代わりに、急遽あたしに宛がわれたのは、年端も行かぬ、僅か十四才の年若い夫。
無理矢理にでも取り繕って、何とか事なきを得ようと画策したであろうことは嫌でも透けて見えたのだけど。
そんなことは、もう、どうでもいい。
(それより何より、この『男』は…)









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あきゅろす。
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