2. けれどひと晩ぐっすり眠ったところで、そう簡単に事態が好転する筈もなく…。 また、折り悪くここまでの道中の疲れと『夫』の失踪による心労が重なったのか、目覚めて間もなくから高熱を発したあたしは再び床に就くこととなった。 元来身体は丈夫な方で、滅多に寝込んだようなこともない。 だが、それがまた屈辱に拍車をかける。 不甲斐なさに、悔し涙が零れそうになる。 極力の人払いを頼み、ただひたすらに眠りを貪る。 高熱にうなされる中、何度も何度もまどろみに落ちる。 夢と現とを行き来する。 …その、最中。 あたしは何度も不思議な『夢』を見た。 見知らぬ若い男があたしを見ては、くつと喉を震わせ笑っているのだ。 まどろむたびに夢で出会うその男は、けれどそのどれもがまったくの『別人』だった。 年代、体格、その容姿までも。 どれを取っても重なるようなところのない、似ても似つかぬ赤の他人。 なのにその全員に、共通して感じていた。 えもいわれぬ『郷愁』を。 その誰も彼もが別の人間であると云うのに、…どうかしたことか。 まるでたったひとりの『男』のようにも見て取れるのだ。 (いったい『彼』らは誰なのだ?) 繰り返すのは自問ばかりで一向に答えは浮かばない。 そうして暫しの対峙を終えた後、彼らは皆一様にあたしの腕を取り、その胸に強く抱き留める。 頬に手を添え、くちづけをする。 からだを組み敷く。 帯を解く。 恍惚とした目で以って、暴いた肌へと手を伸ばす。 そうして露となったあたしの肌へと、舌を這わせては蹂躙してゆく。 まるで喰らい尽くすかのように、貪り尽くす。 飽くこともなく、…この身体を。 けれどその行為に――無体とも呼べるその仕打ちに、一切の嫌悪を感じない。 抗う意思を持ち得ない。 (そんなバカな) まどろみの中、再び詮無い自問を繰り返す。 繰り返し否定をしたところで、それでも身体は男を受け入れる。 その『熱』に何度も身を焦がされて、やがては自ら腕を伸ばす。 乞うて男に抱かれる自分を、酷く冷めた眼差しで、遠く眺める『自分』がいる。 …ありえない話だ。 (何しろ嫁いだ今尚あたしは、男の身体など知る由もないのだから) そうして泥のようなまどろみの中、無体の限りを尽くした男は横たわるあたしをその腕に抱き寄せ、そっと耳元にくちびるを寄せて。 まるで呪詛のように囁くのだ。 ――また、会えたな。…乱菊、と。 → [*前へ][次へ#] [戻る] |