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(=鬼ごっこ)1


※日乱で明治パロとか…。
いえ、あんまり明治関係ないんですけども;
むしろ設定が大分アレなソレなので、日乱なら何でもオケな心広い方向けのパラレルです。
キャラ崩壊著しいので、諸々注意☆




お前の嫁ぎ先が決まった、と。
父から言い渡されたのは、女学校の卒業を間近に控えた、ある雪の晩のことだった。
それだけでも充分驚きに値したのだが、そのお相手がまた、こんな地方の片田舎にまでその名を馳せる大事業家の嫡男だと云うから尚いっそうのこと驚いた。
中央から遠く離れた地方に在って、細々と事業を営む父の元へと思いがけずにもたらされた縁談話。
懇意にしている取引先の知人を介して持ちかけられたと云うそれは、誰が聞いても首を傾げるであろう身分違いも甚だしい、大層身に余る縁談だった。
江戸は遠くになりにけり――とはよく言ったもので、文明開化から二十余年が過ぎた今。
嘗て旗本の家柄にあったとは云え、今更それがこの縁談に意味を為すとは先ず思えない。
況してやこんな田舎の小娘を、正妻に迎えたところで何の得があると云うのだ?
そう思って訝らなかった筈もない。
それでもあたしに…両親に、この縁談を断るだけの理由はない。
むしろ田舎で燻る父にしてみれば、強力な後ろ盾を得る絶好の機会に他ならない。
ならば先方の気の変わらぬ内に、と。
謹んでお受けしますと追い立てられるかのように返事をしたその日の内に、六つ年上の顔も知らない男の元へとお嫁に行くことが、あたしには義務付けられたのだった。
そうして結局、嫁ぐその日まで夫となる男の顔を知ることもなく。
女学校の卒業を迎えたそののち、お座成りな花嫁修業を終えたあたしは、漸く輿入れの日を迎えることになる。
僅かばかりの荷と共に、汽車と俥に揺られてようやく輿入れ先に辿り着いたその矢先。
けれど義母と義父となる当主夫妻から詫びるように打ち明けられたのは、「今朝方長男が女中と共に失踪した」と云う、何とも寝耳に水なお粗末過ぎる顛末だった。
家を棄て。
仕事を棄て。
家族や信頼、体面までもを投げ打って。
たったひとりの女を選んで失踪をしたと云うその男に、だからと言って今更恨み辛みを抱こうとまでは思わない。
それでも嫁ぐべき夫の姿も無いままに、『嫁』としてこの屋敷へと足を踏み入れた自分の今後の身の振りを方を思ってしまえば、気鬱になるのもまた事実。
結婚とは、『家』と『家』との結びつきである、と。
愛や情など二の次なのだ、と。
この身に叩き込まれてきた生きて来た今、たかだか夫となるべき男が女中と共に失踪したからと云って、自分勝手に家へと戻ることなど出来ようもない。
いずれにしろ嫁ぎ先たるこの家と、実家との間で何らかの話し合いが為されるだろうことは間違いがない。
その際出された結論に、大人しく従うより他はないと云うのが今のあたしの『現状』だった。
長旅でお疲れでしょうし、先ずはお休みになられては、と。
厄介払いでもするかのように通された、客間のベッドへと腰を下ろしてから溜息を吐く。
――とりあえず、お前にもう用は無いとすぐさま屋敷から追い払われなかっただけでもマシと、この待遇には感謝するべきなのだろう。
そんなことを思っては、疲れた身体を敷布の上へと投げ出した。
そもそも『夫』の失踪にしたって、何もこちらに落ち度があってのことではないのだ。
むしろ落ち度はこの家の側にこそあるのだから、破談になるにしろこのままこの家に残ることになるにしろ、そう悪いようにはされないだろう、と。
高を括って募る不安と心寂しさと、こみ上げる屈辱を堪えるように。
その夜はそのまま泥のように深い眠りへと落ちたのだった。








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