12. 「つーか、あんま考えたくねえんだけど。そう云うあんたの方こそ、さっきの男が彼女連れで文化祭に来るってわかってたから、…見返す?見せ付ける?的な。なんかそーゆーのに俺のこと、利用すんのに今日誘ったとかじゃねえんだよな?」 だったらすっげームカつくんだけどと詰られて、慌ててぶんぶんと首を横に振る。 ナイナイ、それは断じてナイ。 てゆーか、幾らなんでもそんなバカな真似するわけがない! だいたい付き合ってたのだって、中二の時なのよ。三年も前の話だっつーの! それもほんのひと月程度のもんで、例えば手を繋ぐとか、お昼休みに一緒にご飯を食べるとか、そんな甘いイベントひとつも起こらなかったような付き合いなんだよ。 そもそもデートらしきものもしてないに等しい、うっすいカルピスみたいなお付き合いである。 ただ放課後ちょっと一緒に帰ったり(とゆーか、単にあたしが一緒に帰ろ!って無理やりつきまとっていただけと云うか…)、カラオケに誘ったりはしたのだけれど。 基本反応薄いし面倒臭そうだし、そう云えば好きだと言われたこともなかった。 キスは…何度かしたけれど、今考えれば気持ちなんて全然篭ってなかったような気がする。 そんなことより、いい加減やらせてくんねえ?――って、億劫そうに言われて、何かが違う?…初めて違和感を憶えたのだった。 付き合うってこーゆーこと? 嫌いじゃないし、むしろ全然好きなんだけど。だから別にいい筈なんだけど。 でもあたしまだちゃんと好きとか言われてないし、カレカノらしいことだって全然してない。 そもそも付き合ってまだ半月も経ってないし。あたし、初めてだし。 なんか嫌だな。恐いな。違うなって思ったから、「えー、そう云うのってまだちょっと早くない?」って軽口混じりに返したら、ちょっと意外そうな顔をして。 「…なんだよ。遊んでそうな見かけしてんのに、案外お前面倒臭せえのな」 失敗した…って言われて結局そのまま距離を置かれた。 元々他に好きな女がいるから、って。あっさり切り捨てられてしまったのだった。 今思い出しても黒歴史以外の何ものでもない元カレのことは、確かにトラウマにこそなりはしたけれど。 悔しいから見返すだとか、他の男と一緒に居るのを見せ付けたいとか、そんなアホな執着持っているほどあたしもおバカじゃない。 うん、それにあたしが今日日番谷を誘ったのはただ単に、あたしが絶賛日番谷に片想いをしているからであって、せっかく文化祭だし出来ることなら一緒に見て回りたいし、あわよくば告白のひとつも出来たらいいなと思ったからで。 だけど今ここでそんなこと言ったら、引かれない?あたし。 あんな醜態晒しておいて、どの面下げて告白とか…。 てゆか、あんなチャラ男と付き合ってたってだけで「バッカじゃねえの?」って、ドン引かれてもおかしくなくない? おもきし見る目ない女じゃない、あたしって? だいたい日番谷にしたって、あの子と何でもないなんて言ってるけれど、それって嘘かほんとかわっかんないしね! だってすっごい笑ってたし。 気心知れた…って感じで笑って話してたし。 ホントのホントは好きなんじゃないの?と思ったら、うっかり告白なんて出来ようもない。 (だってお呼びじゃないでしょ、あたしなんて) 可愛げないし、背も大きいし、顔立ち派手だし遊んでそうって良く言われるし、年だって日番谷よりいっこ上だし。男見る目なくてフラレてばっかだし。 そんな女に告白されても、困るだけじゃない?困らせて終わるだけじゃない? 頭の中はぐるぐるぐるぐる迷走してて、ああもうどうしていいやら悪いやらだ。 そんなぐるぐる煩悶しているあたしの傍ら日番谷は、根気よくもあたしの言葉を待っている。 じっと見据えられていて、何とも居心地悪いことこの上ない。 だから「…違う」と、もう一度。お為ごかしに口にした。…ところですかさずまた詰め寄られる。 「違うんだったら、何で今日俺のこと誘ったんだよ。そんで約束しときながらドタキャンされた意味もわっかんねえよ」 …って、そりゃそうだよねー。ですよねーー。 → [*前へ][次へ#] [戻る] |