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泡沫夢幻 1

※日番谷と乱菊に似て非なるナニカの話。
『恋花火』のふたりにまつわるオリキャラメインに、後日談的に徒然と。
いつも以上に捏造色激しいので苦手な方はご注意を。




口外する気は毛頭無いが、俺が妻にと娶った女は、元は祖父の妾であった。
若い頃からとかく好色だったと云う祖父は、元々深川にある然る大店の総領息子であったらしい。
だが度の過ぎた悪所通いによって身代を傾けさせたことが仇となり、人別を抜かれた挙句勘当を言い渡されたと聞いている。
尤も縁を切られたその後も、懲りることなく数多の私娼を渡り歩き、色欲の限りを尽くしたと云う祖父ではあったが、男振りだけはなかなかのものであったらしく、その見目に惑わされた太物問屋の跡取り娘の娘婿の座に運良く収まり今に至る。
元は大店の跡取りだっただけあって、多少なりとも商売の才があったのか、はたまた運が良かっただけか。
日頃から女遊びに手を焼かされてはいたものの、祖父の代となり商いは随分と手広くなった。
ゆえに誰しもが祖父の悪行を戒めることは出来なくなった。――その妻となった、祖母ただひとりを除いては。
元々気性の激しいひとではあったらしい。
それが祖父の女遊びが発覚するたびに、酷い癇癪を起す。悋気を起こす。
さしもの祖父も、妻である祖母にだけは頭が上がらず、そのたびに手を付けた女に逃げられ、或いは囲った女を手放すことを迫られていた。
(懲りねえジジイ)
正直なところ、そんな感慨しか浮かばない。
齢七十を過ぎた今もその好色は一向に衰えず、時に遊里へと通い女を求める。
妾となるような女を囲っては逃げられ、また別の女を探し求める。
呆れるほどに色に狂った祖父が、ある時新たに女をひとり囲ったのだった。
――それがのちに俺の妻となった女であった。
年は二十歳と孫ほども年が離れており、そのよそよそしい態度から、どう鑑みても老いぼれのジジイに囲われることを良しとしていない。
納得して妾になったわけではないことが容易に見て取れたから、拍子抜けをしたのだった。





*
*

その頃まず真っ先に祖父の後ろに女の影を見て取ったのは、他でもない――祖母の子飼いの番頭であった。
四十両余りではあるものの、憶えの無い金が時折動いていることに、帳簿の整理をしていて気付いたらしい。
その際祖母ではなく先ず真っ先に俺へと話を持ち込んだのは、賢明な判断だったとも云える。
暫くの間独自に祖父の動向を探ったところ、程なく祖父がまた『悪い癖』を出したことに行き当たった。
件の女に辿り着いたと云うわけである。
以前にも別の女を囲った新和泉町の妾宅街にまた小さな家を一軒借り上げ、そこに女を住まわせる。
祖母の厳しい監視の目を掻い潜り、およそ十日に一度の頻度で女の元へと通う。
尤も過去の悪行のこともあり、現状祖父の自由になる金は無いにも等しい。
自業自得以外の何ものでもないが、祖母が金を持たせることを良しとしないのだ。
それゆえ見世の金に手を付けて、女を囲っているようなのだ。
(っとに、しょうのねえジジイだな)
その女も、あんな色狂いの老いぼれなんぞのどこが良くて妾なんぞに収まったのか。
とにもかくにもこれ以上、見世の金に手を付けられては堪らない。
況してや祖母に知られればどうなることか…。
考えただけで辟易する。
そう思ったから祖母が勘付くその前にさっさと祖父と切れてくれるよう、説得のために女の住まう家へと赴いたのだが…。
「あたしだって好きでこんなところに囲われてるんじゃないわよ」と、開口一番苦々しくも吐き捨てられて言葉を失くした。









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