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6.


薄っすらと。
笑った俺に、一瞬ぱちくりと目を瞬かせて。
「冬獅郎さん?」
問うた女を抱く腕に、僅かばかりの力を篭める。
(ならば、抱き寄せることに今度こそ躊躇いはない)
露になった薄い背中をぎゅうと抱き締め、露な肌を指で撫で上げる。
肩口にそっとくちびるを落とす。
歯を立てる。
零れ落ちた小さな吐息。
戦慄く細い、おんなの指先。
視界の片隅に捉えて俺は、熱に浮かされたように口にした。

「…続きがしてえ」

ひゅうと小さく息を呑んだあと。
躊躇いがちに、はいと頷く女の目元は薄っすら赤く、どこか安堵の色を滲ませている。
交じり合う視線。
艶を増す空気。
どちらからともなく再び重なり合ったくちびるは、徐々に互いの領域を侵してゆく。
やがて、二人。
再び敷布の上へとゆっくり横たわる。

縋る指先。
甘い吐息。
閉じたまぶたを縁取る睫毛。
下肢に絡み付く長い脚と、締め付ける女のやわらかな身体に…揺れる乳房に、背筋が戦慄く。歯を食いしばる。

うっかりいつもの通り、一人快楽を追いそうになったところでハタと我に返る。
ああ、そうだった。
この女は未だ行為に慣れないから、と。俺に訴え出たほどなのだ。
もしやまだ交合の際痛むのだろうか。
もしや濡れていないから痛むのだろうかと思って気遣うように触れたなら、常は苦悶を浮かべるばかりの女の顔が今日は幾分穏やかで、何よりいつも以上に乱れたことに驚かされた。
と、同時にこれまでしてきた己の自分勝手な交合を今更ながらに詫びたくなった。




「悪リィ、…乱」


そうしていつも以上に乱れて交わったのち、これまでの身勝手な情交を詫びる為に先ずは平身低頭謝って。
「何のことです?」
意味もわからず首を傾げた女を真っ直ぐ見据える。
それからそっと腕を引き、交わすくちづけ紛れに「俺も…お前を生涯賭けて大事にする」と。
ちゃんと…心から愛しているのだと囁いたなら、一瞬驚いたように目を丸くして。
「本当…ですか?」
「…本当だ」
極・疑わしげに。
念押すように口にしたその問い掛けに、心外だとばかりにぶすくれたように答えた俺へと向けて、この腕の中。
初めて見惚れたあの日と同じ…まるで大輪の花が綻ぶような眩いまでの笑顔を浮かべて女が、ありがとうございますと微笑んだ。




end.


ブログにアプした際にも後書きついでに書きましたが、今回江戸パロと云うことで、元ネタにしたのは(ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが)大岡政談の中の「白子屋お熊」の一件です。←簡単に言うと、手代と密通していたお熊が入婿を殺めようとして結局手代諸共処刑されたっつー、ある種不倫事件なんですが(笑)
管理人、常日頃から『日乱脳』なあたまなので、これ読んだ後も速攻日乱変換とかしてみたんですが、どうにも萌えない。この設定では萌えられない。
むしろ当時としては一般的だったと思われる、『好きでもない男との結婚を受け入れて、夫たる男を愛そうとする妻』のがどう考えても萌えるんですけどー!!///と思い至って妄想が暴走した挙句完成したのがこのネタです(笑)
傾向が『御伽噺』と思いっきり似てるところがまた笑えますが、敢えて運命に逆らうのではなく抗うことを諦めて、定めに沿ってパートナーを愛そうとする『夫婦像』っつーのもいんじゃね?と思ってしまうひとなのですみません(w;
因みに江戸時代の婚姻には『持参金』が付き物…っつーか、持参金が嫁ぎ先で物を言う時代だったってのと、嫁ぎ先から離婚を言い渡す際はその持参金をそっくりそのまま相手に返さなくてはならなかったってことだけ参考に追記しておきます^^

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