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15.


夜更けにあたしの部屋を訪ねて以来、王様は十日に一度――多い時には週に一度の頻度で夜が更ける前にあたしの部屋へと訪れるようになっていた。
(それはいい)
けれど不思議なことに王様は、決してあたしの部屋から外に出ようとはしない。
今日も今日とて「土産だ」と言って、たっぷりの焼き菓子の入った籠をあたしに手渡した後、我が物顔で長椅子にゴロリと横たわっている。
いいからさっさとこっちに来いと、またもあたしに向けて手招きをする。
「なんだ、食わねえの?」
「や。い…頂きますけど」
「最近城下に出来た菓子屋のらしいが、かなり評判いいって話でな。試しに幾つか取り寄せてみたんだが、どれもそこまで甘過ぎねえし、…まあ美味かった。だからお前も嫌いじゃないと思うぞ」
「……はあ」
包みを解かずとも辺りに漂う甘い香りは確かにとても美味しそうで。
普段から甘いお菓子に目の無いあたしとしては、勿論すっごくすっごく嬉しい。
だけどどうせだったらそんな評判のお菓子、あの子のところに持って行ってあげた方が良くない?
あの子だって甘いお菓子は好きな筈。
見ればきっと「いいな」と羨ましがるに違いない。
だから一応問うてみた。
「ええ…っと。でもこれ、桃のところに持ってかなくてもいいんですかあ?」
(だって王様、どう見ても他に荷物なんてもの持ってきてないし。お菓子はこれで全部みたいだし)
でも王様は、なんでそんなことを聞く?って顔をして、「…いらねえのかよ」と逆にあたしへと聞き返してきた。
それも酷くムッとして。
(そこ、キレるところ!?)
あまつさえ「いらねえんならお前の好きに処分しろ。ああ、それこそアイツにくれてやったらどうだ」などと、輪を掛けて不貞腐れる始末だ。
えー、なんでええええ!?
だから慌てて首を横に振った。
「い…頂きます!てゆーか、ちゃんと嬉しいですってば!!だって、こおおおんなに美味しそうなんですよ!それに初めて食べるお店のお菓子だし、嬉しくない筈がないですっ!!」
ありがとうございます、王様・と。
親愛を篭めて小さな身体に抱き着けば、途端薄っすらと染まるふくふくのほっぺ。
(わあお、なんとも愛らしいこと!)
思わずうふふと零れる淡い笑み。
それによくよく考えたら、あたしが王宮へと上がっていた頃からこのひとは、しょっちゅうあたしにお菓子をくれていたではないか。
だからきっとこれもその一環。
(案外、迷惑料…とか。思ってのことかもしれないしね?)
一応少しはあたしに気を遣ってくれてのことかもしれないしね。
だったらこうしてあたしにだけ、お菓子を差し入れてくれた意味も納得がいくと云うものよ。
だからお菓子はまるっと、ありがたく頂戴することにした。
でも如何せん時間も時間だし、さすがに太るとマズイので、アーモンドの乗ったクッキーを一枚手に取り恐る恐る食べてみたのだけれど。
(おおおおお美味しいいいい!)
さっくさくのほろっほろで、いかにもバターたっぷりなこの風味。
思わずもう一枚と手が伸び掛けて、ハッと我に返って引っ込める。
うぬう、いかんいかん。あんまり食べ過ぎるとホントに太りかねないわ、これ。
なのにおーさまってば籠の中へと無造作に手を突っ込んで、チョコチップたっぷりのクッキーを徐に一枚手に取ると、「ほれ」とあたしの目の前に差し出す。
「これもなかなか美味かった」
などと、これ見よがしに悪い誘いをかけてくるではないか!
(てゆーか、鬼か?!)








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あきゅろす。
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