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13.


だけど王様はあたしが止める暇も無く、サッと寝室の窓からベランダに出ると、実に身軽に傍らの大木の枝に飛び移る。
(てか、サルですかっ!?)
「ちょちょ…おーさま!まさかお一人でここまで!?」
「いや、黒崎を屋敷の外に待たせてある」
「うえええええ!!」
黒崎と云えば、王国随一と名高い近衛騎士隊隊長じゃないの!
「っそ、そんな大物引き連れてこんなとこまで来ないで下さいようっ!ついでに外で待たせてるとか、バカですか貴方はっ!」
「ああ゛?黒崎っつッても『黒崎一心』じゃねえよ。息子の方だ」
「むす…こ?」
「憶えてねえか?お前らが王宮に来てる間、俺の護衛についてた頭オレンジのヤツが居たろ」
「……ああ、あの子!」
言われて漸く思い出した。
初めて王宮に上がったあの日、思わず王様を怒鳴りつけてしまった際に、すぐ傍らで護衛していた(近衛騎士隊の中でも下っ端と思しき)若いあの騎士が、黒崎隊長のご子息だったわけですか。
(うわ、あっぶな!)
あの時もし王様に口止めしてもらえてなかったら、後でいったいどうなっていたことやらと、思って今更ながらにゾッとする。
下手すりゃあの子を通じて黒崎隊長の耳まで入って、そこから前王様に…なんてこともあり得たものね。
となれば確実に不敬罪は免れなかった筈だ、あの時のあたし!
ゆえに、おーさまには非常に感謝もしているけれど、それでもこの扱いはさすがにどうかと思うわけで。
(ああもう、護衛のあの子もすっかり振り回されちゃっててかわいそうに)
だいたい王様ともあろう御人が、夜中王宮を抜け出して、こんなところまで来ていることがバレたらどうするのだ。
立場上付き従うより他無かっただろうあの子だって、事が明るみになった暁には当然洒落にならないだろうに…バカじゃなかろうか?このひとってば。
「っもう!護衛の騎士だって暇じゃないんですから、お戯れも大概にして下さいね、おーさまっ」
「別に戯れのつもりはねえよ。つーか、また来っから窓の鍵は閉めんじゃねえぞ」
「って、ちょ…またあたしの部屋から出入りするおつもりですかあっ!?」
「おう。お前の部屋が一番都合がいいからな」
わあ、調子いい!
さっきは無用心だなんだって、さんざ小バカにしてくれた癖に。
今度は自分が出入りするから鍵するなって、どーゆーことよ。
だけどこの部屋が一番出入りに『都合がいい』と言われれば、まあまあ確かにそうなんだろうなと頷かざるを得ないけれども。
「て、ゆーかですね。別にこーんなコソコソ通わずとも、堂々訪ねて来られたらどうです、昼間に」
「無茶言うな。俺もそこまで暇じゃねえ!」
自由に出歩けるのなんざ、執務が終わった後の夜しかえねんだよとねめつけられて、それもそうかと慌てて思い直す。
おーさまってばこう見えて、政務だなんだで色々とお忙しい立場なんでした。
だからこうしてこっそり、側近達の目を掻い潜って王宮を抜け出し、わざわざここまで来てんのよね。
…ああ、でもだったら。
「王宮へまた呼び寄せたらいいのに…」
きっとお父様もお義母様もお喜びになるだろうし、妹だって…きっと嫌とは言わないだろう。
むしろこんな隠れることなく、堂々逢瀬が出来るからと喜ぶんじゃあないのかしら。
なのに王様はムッと眉間に皺を寄せると、
「ンな片手間に会うようなマネしたかねえし、第一これ以上他の男の目に触れさせんのも我慢ならねえ」
だから却下だ、却下!
俺自ら足を運んで会いに来るからいいと抜かすではないか!
(うあああああ、何その情熱!独占欲っ!!)









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あきゅろす。
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