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12.


夜会で疲れて、いきなり訊ねてきた王様とのやり取りで以って振り回されて。
さすがに今日は疲れました。
そろそろ寝たいです。お風呂にだって入りたいです。
せめてドレスを脱ぎ捨てたいです。
だからと言って、さすがに王様の居るこの場でドレスをせいせい脱ぎ去るようなわけにもいかず、先ずは結い上げていた髪をバサリと解いた。
いい加減夜会用のドレスときつめのコルセット、それからきっちり結い上げた髪が窮屈に感じられたのである。
(あー、ほんとお風呂に入りたいな。ついでにお化粧も落としたいな。それでコルセットもドレスもバーッと脱いで、さっさと楽な部屋着に着替えたいなー)
だからそろそろ出てって欲しいなとの願望を篭めて、傍らの王様を横目にちらりと窺うも。
生憎王様は髪を解いたあたしをじっと見つめるばかりで、ちっとも部屋を去る素振りを見せないものだから、どうしていいやら困ってしまう。
…うう。そこは空気、読みましょうよ。おーさまあ!
だいたいもう随分な時間なのよ。
一国の王様が、こんな時間まで外でふらふらしてていい筈もない。
(それにこのひと、まだまだ十二の子どもだし?)
早く戻ってゆっくり休んだ方がいいんじゃないの?
明日の仕事に差し障るわよ?
大きくだってなれないわよう?
そう思っては、溜息を吐く。
「ええっと…おーさま?出来たらあたし、そろそろ着替えたいんですけれども」
「っあ、ああ。…悪リィ」
漸くのこと、ハッと我に返ったらしい王様の顔は、何故かほんのりと赤く染まっていた。
サッと逸らされた翡翠の瞳。
見慣れた筈のその翡翠の色も、この一瞬で随分と濃度を増した気がしてまた戸惑う。
戸惑うあたしに「あー…、なら俺もそろそろ城に戻るわ」と切り出した王様は、ふうと重たげな溜息をひとつ吐き出すと、すっかり動揺も収まった顔で改めて傍らのあたしへと向き直ると、徐にあたしへと向けて手を伸ばす。
そのままそっと右手を取られて、あっと思う間もなく甲へとくちびるが寄せられた。
予想外のことに思わずカッと頬が熱を持ったのは当然のこと。
指先に触れる小さな手のひらと、薄いくちびるのぬくもりに、何が何やらわからなくなる。
「っお、おーさまっ!?」
驚きの余り、思わず咎めるような声が出た。
(だだ…だってこのひとにこんなことされるのなんて、初めてなのよう!)
けれど、動揺しきりのあたしの非難を軽く無視して、
「…なあ、またここに来ていいか?」
極淡々と問いかけられて目を瞠る。
「花嫁修業、ちゃんと真面目にやってっか、時々様子見に寄ってやる」
…って、何ですかそれっ!?
「っはああああああ?!」
「ああ、それから夜会はほどほどにしとけ。今度またこの時間に俺が押し掛けて、部屋に居ねえようなら仕置きすっから覚えとけ」
「って、ちょっとちょっと…何勝手なことほざいてんですかああああ!!」
夜会はほどほどにしとけ、とか。
部屋に居なかったらお仕置きだ、とか。
何だそれ。
さっきのヒールの件といい、ありえないぐらい横暴じゃないか!









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あきゅろす。
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