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11.


「わ。赤くなってるし!」
鈍い痛みを感じたこともあり、てっきりあの時肌へと噛み付かれたものと思っていたのだけれど。
確かめたところ、そんな歯形らしきものは残されてなんていなかった。
代わりに虫に刺されたような鬱血の痕がはっきりくっきり残されていて、あたしはぎゅうと眉根を寄せる。
しかも、場所がかなり際どい。とっても目立つ。
これじゃあ夜会用の胸元の大きく開いたドレスは、暫く着れそうにないではないか。
「…おーさま、酷い」
明日も夜会があるのに、と。
恨みがましくもプンスコと、頬を膨らませながら不満をぶつけたのは当然で。
「だからさっさと離せっつッたろ」
なのに王様ときたら、まるで悪びれた素振りもない。
それどころかますます眉間の皺を深くするばかり。
ぶっすりぶすくれたようにそっぽを向いて、また何やらぶちぶちとひとりごちているようで。
「こんなカッコでまた夜会とか、冗談じゃねえ…」
「へ?何か仰いましたか、おーさま」
「…何でもねえよ」
然も忌々しいとばかりに溜息を吐いて、やや投げ遣りに打ち切られてしまった会話。
後には重苦しいばかりの空気が残されて、自室だと言うのに何とも居た堪れない。
(まあ、でも。嫌がる王様相手に無理やり抱き着くとか、さすがにちょっと…やり過ぎたかしら?)
幼い頃から知った仲とは云うものの、仮にも相手は『王様』である。
そんな高貴な身分の御方相手に軽々しくもしがみ付くとか羽交い絞めにしちゃうとか、不遜以外の何ものでもない。
(うん、ちょーっと箍が外れちゃったかな?)
久々に会えた嬉しさで、ちょーっと舞い上がっちゃったみたいだ、あたし。
そもそも王様はあたしのことがあんまりお好きでないのだからして、そんな女に無理やりのように引っ付かれたら、そりゃあ嫌な気持ちにもなるだろう。
苛立ち紛れに跡を残すとか、嫌がらせのひとつもしたくなった気持ちもわからんでない。
だから「ごめんなさい」と素直に詫びて、距離を置くよう再び傍から離れた。
腰掛けた長椅子の隅っこに、ズリズリ移動をしたのだけれど、どうやらそれがまた王様の癇に障ったらしい。
「なんで、ンな隅っこに行くんだお前は」
いやいや、おーさま!
アナタ今あたしに「香水臭い」って言ったでしょーが!
離れろって言ったばっかりでしょが!
今度は極力機嫌を損ねないように、しどろもどろに説明するも、何でか今度は「それとこれとは話が違う」と更に距離を縮められた。
寄り添うように座り直すことを命じられて、…なんと云うか、ドッと疲れた。
ああもう、いったい何なのよ。
くそう、今のでまた無駄に疲れてしまったではないか。
(てゆーか、王様。あなたここには『妹』に会いに来たんですよね?)
ついでにあたしの顔も見てってやろうと思って、あたしが帰ってくるのを待ってここに残ってたってだけなんですよね?
だとしたらもう充分じゃない?
近況だってお話したし、顔も見たでしょ。充分でしょ。
おまけに今となってはぶっすり黙り込んじゃって、これってば話すことだってもう尽きたってことでしょう。
これ以上あたしと一緒に居たって意味ないでしょが。
(てゆーか、疲れた。ほんと疲れた)








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あきゅろす。
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