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6.


夜半過ぎ。
夜会を終えて、やっとのことで屋敷へと帰り着いた先あたしの部屋に、居る筈もないひとの姿を見止めて時が止まった。
王様となったあのひとが、あろうことか我が物顔で長椅子にどっかり腰掛けているではないか。
一瞬幻覚なのかと思って目を疑った。
だけど生憎『夢』でも『幻』でもなくて、再度確認の為にとあたしは更に目をこする。
(うん、夢じゃないし!幻でもないし!!)
てゆーか、ちょっと待てええええええ!
何がなんだか良くわからないけれど、これってちょっとおかしくない?不味くない??
なんだかとってもよろしくない状況なんじゃあないのかしらと思い至ると同時に慌ててバタンと扉を閉めると、後を付いてきた侍女の様子を窺った。
「…お嬢様?」
どうされましたと問い掛ける侍女はきょとんと瞬くばかりで、今現在中で寛ぐ人物について切り出す素振りは微塵も感じられない。
王様がおいでですのひと言もない上に、そもそも全く動じる様子もないと云うことは、やはりこのまま彼女を伴い部屋の中へと入るのってまずいんじゃないのかしらとの確信に、咄嗟ざあっと血の気が引いた。
「ああああ、今夜はその…疲れてるからもういいわ!湯浴みも明日の朝でいいし、着替えもひとりで出来るから、その…今夜はもうこのまま休んでくれていいから!」
「え…、あの、お嬢様?!」
支離滅裂と知りながら、何が何でも部屋に入れて堪るかとばかりに「今日はもういいから!」と畳み掛ける。
わけがわからないと云った態で呆気にとられる侍女をその場に残し、それじゃあおやすみ!と逃げるように部屋の中へと滑り込んだのは言うまでもない。
そうしてずるずるとへたり込んだ扉越し、躊躇いながらも遠ざかっていく侍女の足音にホッと安堵の息を吐く。
信じらんないと、小さくごちる。
いや、これがごちらずにいられようものか!
それからもう一度、何かの『間違い』なんじゃないかと思って目元をこすってみたものの、やっぱり間違いなんかではなかったようだ。
「おい、あんま擦ると化粧が剥げんぞ」
「余計なお世話です、うるさいですー。てゆーか、誰のせいだと思ってんですか!」
ああもう、あんまり吃驚し過ぎて思わずぞんざいな口の利き方になっちゃったじゃない!
だけど相対する王子様…もとい王様は、まるで意に介した様子も無い。
…と、ゆーか。
むしろちょっとぐらい動揺しなさいよ。
だいたい、なんっっでこんなところに居るわけ、このひと!?
勝手に無人のあたしの部屋へと転がりこんで、こうも堂々している意味からしてもうわからない。
「ところで、王様。なんでまたこんなところにいらっしゃるんです?」
ここはあたしの部屋であって、あの子の部屋ではございません・と。
暗に示したつもりである。
否、そもそもいったい今が何時だと思っているのだ、このコドモは。
既に夜半も回っているのだし、そもそも部屋どころか家を訪ねるには、些か非常識極まりない時間では?
「以前送った手紙に、近い内に会いに行くって書いてなかったか?」
「っそ、そりゃあ確かに書いてありましたけどもっ」
(だからって、こんな時間に来ますか普通?!)
ああもう、本気で話にならん!
いやいやそれ以上に、お忍びで来たのかはたまたこっそり王宮を抜け出して来たのかは知らないけれど、せめて応接間で待ってなさいよと思わないではいられない。
尤もそんな真似をした日には、お父様から王宮へと即刻伝令が飛ぶと思うけれども。
となればやはり、前回同様王宮を抜け出して来たに違いない。
(ええい、コドモの分際で!)
しかも屋敷へと戻った際に、まだ起きていた使用人の誰もあたしに何も言って来なかったことからして、どう考えてもこれってば『不法侵入』?
よもやと思ってバルコニーへと続く寝室の窓を慌てて確かめに行けば、予想通り。
「…開いてるし」
「ああ。相変わらず無用心だよな、お前」
ベランダのすぐ傍にゃ、お誂え向きにデケエ木まで生えてんだ。
幾らここが二階とは云え、賊に入られても知らねえぞ・と。
しゃあしゃあ仰いますか?…え?アナタが!








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あきゅろす。
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