4. そりゃあ、美味しいお菓子には確かに目が無いわけですが。 大・大好物ではありますが。 殊に王宮で出されるお菓子は物珍しいものが多々あって、何気に楽しみにしていたりもするんですが。 だから、まあ。敢えて逆らうようなこともせず、時折こうして連れ立って、庭を抜け出してはお菓子を分けてもらったりと、ふたりきりで過ごすこともあった。 だけどそんなことが何度も続けば、少しずつ他の子達から相手にされなくなるのも当然で。 元々ひとり年嵩のあたしはこの集まりの中で浮いていたことは否めない。 それに輪を掛けて、声をかけてもどうせすぐにも王子様が現れて連れて行ってしまうから、と。 いい加減他の子達もあたしに構うようなことはなくなった。 徐々に距離を置かれるようになったのである。 (まあ、そりゃそうよね) 『付き添い』なんて立場で輪に混じってる、年上のわけわかんない女なんかと積極的に関わり合いになりたいと思うはずがないわよね。 おまけにあたしと話をしていれば、どこからともなく不機嫌ヅラした王子様がやって来る。遊びを遮り邪魔をする。 これじゃあみんな思うように遊べないし、敬遠されて当然だろうと悟って以来、あたしは周囲と積極的に関わろうとも思わなくなった。 少々退屈になりはしたものの、お招きは十日に一度――頻繁であってもせいぜいが週に一回程度と我慢出来ない程ではなかったし、元々は妹の『付き添い』なのだ。 割り切ってしまえば、まあ…別に。 それに王子様と妹が仲良く遊んでいるのを眺めているのは嫌いじゃなかったし、退屈しのぎか気まぐれか、時々王子様が話しかけても来てくれたから、まあまあ良しとしたのである。 況してや多少なりともひとりで居る時間が増えたからか、その内王宮に仕える若い騎士だとか仕官している若い貴族の殿方達から、度々声を掛けられる機会が増えたように思う。 (年頃になってモテ期を迎えたってことかしら?) となれば当然、俄然今後を見据えて良縁を期待したし、何よりこれまでちみっ子ばかりを相手にしていたこともあり、ちょっと年上の殿方達にちやほやと声を掛けられるのがどうにも新鮮でならなかった。 心密かに浮かれてもいたのだけれど、悲しいかなそんな夢のような日々は、そう長くは続かなかった。 何故なら王子様が十二の誕生日を迎えて間もなく、国王様が急逝されたからに他ならない。 なんと、僅か十二歳で以ってあのひとは、この国の新たな王となったのである。 ゆえに、男女の区別無く遊んでいた日々もこれでおしまい。 王子様は王様に。 あたしはあたしで遅まきながら、家の為となる結婚相手を見つけるべく、夜会へのデビューが決まって慌しくなった。 (まあ、こればっかりはしょうがないわよね。王宮で花婿候補が見つけられたら良かったんだけど、そうもいかなくなっちゃったし) 恐らく父と義母も、多少そう云った縁が生まれるのを期待して、これまであたしを王宮へと送り出していたんだろうけど、どの道その思惑は叶わなかったんだからもうしょうがない。 …ええ、そうなんです。 例えこのタイミングで即位云々が無かったとしても、もう二度と、王宮へとお招きされることはなかったんです、あたしってば。 何故なら先代の王様が崩御されるその少し前、既にあたしは妹の付き添い役を解任。並びに、今後一切王宮へと上がることを固く禁じられてしまったのである。 それも、他でもない――王子様の命令によって。 ゆえに結婚相手を見つけるためにも、夜会デビューは避けて通れぬ道だったのだ。 とは云え、さすがに最初その話を切り出された時は、なんたる横暴、なんたる理不尽!と憤りに駆られもしたのだけれど。 さんざガキんちょのお守に明け暮れていて、やっと訪れたモテ期だと云うのに! これから心ゆくまで結婚相手を吟味しようと思ってたのにいいい!と、ブチ切れそうにもなったのだけど。 そこは腐っても王子サマ。 当然逆らうことなど出来ようもない。 『用無し』の烙印を押されてしまった以上、大人しく引き下がるより他はない。 況してや以前に一度、首根っこ掴んで怒鳴り散らしたことを、ありがたくも不問にして貰っている立場なのだ。 仮にここで再びあたしがブチ切れたところで、さすがに二度目の恩赦はないだろうことも承知している。わかりきっている。 ばかりか、ムッと顔を顰めた王子様に、 「付き添いはもういい。これから桃にはひとりで城まで来てもらう。お前は大人しく家で花嫁修業でもしてろ」 なんて嫌味までをも言われてしまったら、幾らムカつき千万腹立たしかろうが、大人しく引き下がるより他ないではないか。 (てゆーか、何なのよ花嫁修業でもしてろってのは!) → [*前へ][次へ#] [戻る] |