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2.


結果、やってしまいましたとも、ええ。
あからさまな無視と共に、あたしの傍らを通り過ぎようとした王子様の襟首掴んで怒鳴りつけたわよ。ブチ切れたわよ。
『おしとやかなお姫様』の仮面なんてもの、一瞬にして空の彼方へとぶん投げて、思いっきり素が出ましたよ。
けれど我に返って青ざめるあたしを他所に、ドMなのか何なのか、王子様ったら「…まあいい、今のは聞かなかったことにしてやる」と。
あたしの不敬を意図もあっさり不問にしてくれた。
しかもすぐ傍に居た、護衛の若い騎士にもちゃあんと口止めしてくれると云う徹底振りだったから驚きだ。
(た…助かったあああああ!)
首の皮一枚繋がったような気持ちでいっぱいだったのだけれども(だって下手したら、お家存続の危機にだってなりかねないのよう!)、さすがにそれで終わる筈もなく。
ホッとひと息吐いたところで、いきなり意味不明な言葉をしたり顔で突きつけられた。
「これで『貸し』ひとつだ」
当然のことながら、突きつけられた「貸しひとつ」の意味はまるでわからない。
確かめようにも王子様は、それ以上語ることなくこの場を後にしてしまったから、残されたあたしはただただ首を傾げるばかり。
貸しって…貸しって…もしやもっと厄介な、何かとんでもないものを背負わされたのかしら、今あたし?と。
ほんのちょっぴり戦々恐々としてしまったのだけれど、いい加減帰る頃にはもうどうでもいいやと開き直っていた。
だって、とにもかくにも何事もなく『今日』と云う一日を終えることが出来たんだから、結果オーライ。
後はすっぱり忘れちゃおうと、ひたすら前向きに受け止めたあたしは、ある意味暢気な子どもだったとも言える。
尤もそれは、『次のお招き』があるかどうかもわからないけれど、とりあえず、もしまた万が一にも次回妹の元にお招きの話があったなら、今度こそ付き添いは辞退しよう。
もう二度と王宮になんてついて行くもんか。王子様になんて会うもんかと云う決意前提ではあったのだけど。
…それなのに、なんたることだ。
件の王子様ときたら、どうやらうちの妹を大層お気に召したらしく、また次も必ず遊びに来いと帰る間際に念押ししたらしいのだ。
それを聞いたお父様が舞い上がるように喜んだのは言うまでもない。
何しろ相手はこの国唯一の王子様なのだ。
うまく行けばゆくゆくは、王妃として城に召し上げられるに違いないと歓喜したのも無理はない。
…うん。腹違いとは云え、四つ年下の妹は、確かに見た目も愛らしく性格もいい。
王宮に着いて早々こそ、多少人見知りしていたけれど、元々愛嬌のある子だもの。
今日一日で王子様ともすっかり打ち解けていたように思う。
…だからまあ、お似合いなんじゃないの?と他人事みたいに思っていた。
(ま、そうは云ってもあたしにはもう、何の関係もない話だけど)
王子様直々のお誘いってことで、王妃様へのご挨拶も兼ねて、次からはお義母様が妹に付いて王宮に向かうそうだから、あたしが王子様に会うことなんてもう二度とないだろうなと高を括っていた。
むしろそうであれと願っていた。…のだけれど。


「なんでテメエは城に来ない」


驚いたことに王子様ってば、お忍びで我が家にやって来て、苛立ちいっぱいあたしに文句を垂れたのだった。
(て、ゆーか。なんっっであたし!?)
思わず絶句したのも無理はない。








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