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1.


小さな頃から不思議な子だなと思っていた、五つ年下の王子様。
遊び相手にと妹共々お招きを受けた王宮で、「はじめまして」と挨拶をした。
――その瞬間。
何故かあたしの顔を見て、ムッと眉を顰められた。
…あ、キラワレた?
直感でそう思った。
まあね、五つも年上だもんねあたし。
しかも『女』ですからね。
そりゃあ、やんちゃに遊びたい盛りの王子様からしてみれば、相手に不足と捉えられたところで不思議はないわね。
面白くないと思ったところで当然でしょうよ。
(ま、そうは云っても所詮あたしは『オマケ』みたいなもんですし?)
多少気に入らなくともそこは我慢しといてよと、胸中辟易したのは否めない。
兄弟もおらず、他に子どもは皆無のこの王宮の中、周囲は年の離れた大人ばかりと云う環境を危惧された王妃様の提案で、王子様の遊び相手として上級貴族の子ども達が何人か、王宮へとお招きされることになったその日。
我が家から招待を受けたのは王子様とひとつ違いの妹のみで、五つも年上のあたしは元々頭数になんぞ入ってなかった。
(当然だ)
それがこうして王宮くんだりまで足を運ぶことになったのは、偏に若干人見知り気味な妹から、急遽付き添いを頼み込まれたからに他ならない。
だからあたしにしたって、ここに居るのは全く以って本意ではない。
むしろ「あー、面倒」ってのが本音でもあった。
そんな嫌々足を運んだ王宮で、ご挨拶をしたその瞬間にソッコーご機嫌損ねちゃいましたよ、あたし。
う〜ん、マズイな。
てゆーか、すんごい面倒なことになっちゃったなあ。
別にあたしが何をしたってわけでもないし、不敬を買う程の粗相をしたようなつもりも無い。
だからなんでこんないきなり不機嫌になっちゃったのかがわからないのだけど、むしろ理不尽だなって思ったけど。
まあまあ、相手は王子サマ。
況してや父は現在進行形で王宮に仕官している身であるし、ここで長女のあたしが心証を悪くするわけにもいかないし?
ここはひとつ、目に見える不機嫌はひとまずスルーして、愛想のひとつも売っときますかと気持ちを切り替えた。
(うん。頑張ったと思うわよ、あたし)
今日一日我慢して、そつなく過ごせば何事も無く終わるんだからと無理矢理のように自分自身に言い聞かせ、例え妹始め他の子達には(不遜であっても)ちゃんと挨拶をしたり返事したりとしてるのに、あたしに対しては挨拶どころか存在自体をガン無視かよと思っても、…ええ。
我慢に我慢を重ねましたとも。
今日一日は、何があっても『素』を出すまいと、固く心に誓ってお招きに挑んだのだけれど…。
結果としては、怒鳴りつけていた。
それも、王子様の首根っこをとっ掴まえての所業である。
…サイアクだ。
(いやでもホントにムカついたんだもの!我慢の限界だったんだものーーっ!!)
いちいち態度が腹立たしいのをぐっと堪えて我慢して、頑張って話しかけたり声をかけたと云うのに、ムッと目を逸らす。然も嫌そうに顔を背ける。
その癖他の子達には愛想良くも笑いかけたりなんかしちゃってるものだから、とうとう「ちょっと、シカトしてんじゃないわよ!」と、ブチ切れるに至ってしまった。
(うんまあ、あたしも若かったってことよねえ?)
と云っても、当然これには王子様もブチ切れた。
何しやがるテメエ!!と、それはそれはお怒りになった。
それも、テメエときますか…何気に口悪いですよね、王子サマの癖に。
まあそれは横に置いとくとして、無論不敬罪に問われかねないマネをしでかしたあたしとしては、我に返って正直ビビッた。
さすがにこれはマズイことになったと悟って臍を噛んだ。
幸いだったのは、他の子ども達は皆庭に出て遊んでいたことだろう。
何しろあたし以外は皆十歳前後と幼く、正直いい加減子どもの遊びに飽きてもいたし、偏屈過ぎる王子様とのやり取りで精神的に疲れ切っていた。
それゆえあたしひとりだけ、部屋の中で長椅子に腰掛け、のんびり休んでいたのだ。――王子様が顔を出すまでは。
うわ〜やだな〜、早くどっかに行ってくれないかしらと心中辟易罵りつつも、顔では優雅ににっこり笑って「あら、王子様もご休憩ですか?」と、かけたくもない声をかけてあげた。
(うん、あたしの精一杯だったと言えよう)
けれどその精一杯すらも無視されたのだ。
それも恐ろしく素気無い一瞥と共に。
ええもう、さすがにブチ切れなかった筈がないわよ。
ああ、そう。ふたりっきりだってのに、それでも露骨にシカトしちゃう?無視しちゃうかしら、あたしのこと?
どんな躾受けていやがる、ええちょっと?!と、さすがのあたしも堪忍袋の緒が切れた。
何しろ朝から積もりに積もった我慢と苛立ちは最早限界突破も間近で、その憤りを沈める為にあたしはひとり、この部屋の中で瞑想に耽っていた次第である。









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