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1.


「ったく、お前は…毎度毎度性懲りもなくつまんねえ男に引っかかりやがって。学習能力ってモンがねえのか?」
「ごもっともです、すみません」
「つか、あんだけ痛い目みてて、なんでそう簡単にひょいひょい男と付き合うような真似が出来んだよ?もうちょっと相手見極めてからにしろよな、テメエは」
「全く持ってその通りです。返す言葉もございません」
うなだれたまま、だらんと差し出された白い腕をとる。
女の細く白い腕には所々に擦り傷ができ、あまつさえ薄っすらと血が滲んでいた。
見れば膝にも顔にも同じような傷があったから、大方逃げる際転んだか、襲われた際怪我させられたかのどっちかだろうとの見当がつく。
改めて俺は呆れたように溜息を漏らした。
「バカな女」と。


それから薬箱を取り出すと、マキロンを容赦なく傷にぶちまけ力任せに脱脂綿で拭い取った。
「いっ…たあ!!」
余程傷に沁みたのか、身をくねらせ逃げだそうとする白い腕。細い手首を捻り上げ、更にびしゃびしゃとマキロンを塗りたくってやった。
「いたっ…!いだだだだだだだ!!!」
「自業自得だ、我慢しろ」
果ては暴れる女の身体に乗り上げて、膝・太腿にも消毒を施す。
てか、結構酷でぇな、この傷。
「っっ!!とおしろーー!!!」
あまりの痛みに耐えかねたのか、涙混じりに女…松本乱菊は声を張り上げ俺の名を呼んで静止を求めた。
「アンタねえ、さっきから痛いっつッてんでしょ!手当てしてくれんのは助かるけども、もうちょっと優しくできないの!?」
ゼーハーと荒い息で俺を睨みつける青色の瞳、金色の睫毛。あかいくちびる。豊かに揺れる白い胸元。
ああ、どうしようもなく『女』なのだと思った。
…だが、知るものか。
「うるせえ。ンなもん、無理矢理男に突っ込まれる痛みよか百倍マシだろ」
冷たく言い放てば、それまで大げさに騒いでいた女がようやくピタリと口を閉じ、神妙な顔つきで「ごめん」とひとこと。小さく謝った。
松本は基本頭の悪い女だったが、反面恐ろしいまでに素直な女でもあった。
(そうでなけりゃ、五つも年下の小学生の餓鬼相手に謝ったり手当てを強請ったりはしねえだろう)
そして俺は、そんな素直で若干頭の弱い、隣家に住むこの女子高生のことを存外気に入っていたのだった。
(そうでなけりゃ、こんな時間に押しかけてきた迷惑な女をわざわざ家にまで上げて手当てしたりしねえだろう)



そもそも松本が俺の家に押しかけてきたのは、夜も九時を回った頃のことだった。
さて、そろそろ風呂でも入るかと思った矢先、ピンポンピンポンピンポンとけたたましく玄関のチャイムがなったのだ。
いったい誰がこんな時間に…と、眉を顰めてまず思い当たったのは、当然不在の親父と母さんのことだった。
だが、親父は長期の海外出張で不在。母さんは入院中のばーちゃんの付き添いで明日の昼まで帰らないと言っていたから、まずそのどっちである筈もない。(それに二人は当然家の鍵を持っている。こんなマネは不要な筈だ)
だとすれば…。
正直、嫌な予感はした。
何故ならこんな時間にこんな非常識なマネするヤツなんざ、どう考えても俺の周りには『あの女』以外いないからだ。
…松本乱菊。
真っ先にその名が頭に思い浮かぶ。
しかも一昨日マンションのエレベーター内で偶然顔を合わせた時に、あの馬鹿女は「今日ね、街でナンパされて付き合わない?って告られたんだー」とか何とかほざいてなかったか?
それより何より、アイツは俺の家庭事情をしっかり把握しているのだ。
未だ鳴り止まぬピンポンラッシュ。
それでも僅かな望みを託して質の悪い酔っ払いかもしれないと考えた俺は、当然無視を決め込んだ。
だが。
「とーしろー!アンタまだどうせ起きてんでしょ!?コラあ、出てこーい!!」
これでは間違いなくあの女の仕業に違いないと確信するより他にない。しかも、仕舞いにはガンガンとドアまで叩き出す始末。いい加減近所迷惑でもある。
仕方なくチェーンを外し玄関のドアを開けてやると、案の定、そこには膝を擦りむき髪も衣服もぐちゃぐちゃに乱した松本が半べそをかいて立っていた。
(またかよ…)
懲りねえ女だと呆れた俺は、これ見よがしにでっかい溜息を吐き出した。






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