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4.


「嘘じゃねえ。お前が好きだっつってんだ」
隊長は目を逸らさない。
だからあたしも目を逸らせない。
心臓が、煩いくらいにバクバク音を立てている。
「だって…」
雛森のことは?
それについこの間、あたしは振られた筈じゃあなかったの?
そんなあたしの疑問を打ち消すかの如く、尚も紡がれる。強くその腕に抱き寄せられる。
繰り返し、耳介へと注ぎ込まれる「好きだ」の言葉。
「すぐには信じられなくとも仕方がねえと思ってる。…けど、」
――お前のことを好きになった。
だから『同情』や『負い目』なんて言葉でもう二度と、俺の気持ちを否定をするな、と。
まるで懇願するように、希うように紡がれた言葉。
尤も、意味はよくわからない。
何しろ今のあたしに『同情』だとか『負い目』だとか、そんな言葉でたいちょの気持ちを否定出来るだけの余裕はない。
…と云うよりそもそも否定以前に、まだ夢でも見てるんじゃないかって、信じられない気持ちの方が強いんだもの。
それにこれまで一度だってあたしにそんな否定の言葉を口にしたような記憶はない。
だからそのまま、思うがままを伝えたのだけど。
隊長は、今にも泣きだしそうにふっとわらって。
「そうか。それすらもお前は憶えていないんだったな」
またどこか、悔いるように奥歯を噛みしめる。
ごめんな、って繰り返す、掠れた声と。ぬくもりと。
(ああでも、そうか…そう云う受けとめ方もあったんだなあ)
ぼうやりとした頭でふとおもう。
一度は振った女が身代わりのように大けがを負って、しかもひと月半も臥せったまま。
挙句、ふた月余りも療養生活を余儀なくされたのだ。
だとすれば、真面目で実直な隊長のこと、多少なりともこの事態への負い目を感じたところで不思議はない。
その負い目ゆえ、同情ゆえに、あたしに向けて手を差し伸べた。
(だって一度は振った相手なのよ?)
そんなすぐに気持ちが変わるとは思えない。
それにこのひとにはちゃんと想う相手がいるのだ。
死神になるうんと前、それこそ流魂街にいた頃からずっと、たったひとりを見つめ続けてきたのだ。
そんな深い想いをこのひとが、そう簡単に捨ててしまえる筈がない。
だったらやっぱり負い目と同情、責任感ゆえこうしてあたしに手を差し伸べたと考えるのが妥当だろうな。
そう思ったから、信じることを躊躇った。
むしろ結果的にこのひとを縛り付けることにもなった、あの日の告白を悔いるばかりだったのだけど。
「あの…たいちょ?そんなに無理して気遣ってなんて下さらなくても、あたしだったら大丈夫ですよ。踏ん切りだってもう付いてますから」
だからもう大丈夫。
あの子の元へ行って下さい。
痛む心を押し殺したまま、告げたあたしの言葉を遮るように、
「っそうじゃねえ!」
叫ぶと同時にあたしを腕に抱いたまま、力なくも頽れる身体。
…ああ、そういえば。
こんな会話を夢の中、前に交わしたことがあったなとおもう。
(そう。確かあの時も、このひとはこんな風に泣いていたはず)









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