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2.


好き?
…誰が?
隊長が?
…誰を?
だけど思いつくのは唯一人、やっぱりあの子以外には居なかった。
「雛森が、ですか?」
「…馬鹿だろ、テメエ?」
そしたら、「今この状況で雛森ってありえねえだろ、ばっかじゃねえの」と、棘いっぱいに扱き下ろされた。
…でも、何で?
ほんの僅か、緩んだ拘束から抜け出すように顔を上げて覗き込む。
目の前には、見下ろすように――翡翠が二つ。
「たい、ちょ…?」
「なんだよ」
「なんって顔、してんですか!」
「うるせえよ」
吃驚した。驚いた。
あたしを見下ろす隊長の顔は、今にも泣き出しそうに。
それはそれは痛そうに。
だけど苛立たし気に酷く歪んでいたものだから。
永年傍らに居るけれど、隊長のこんな顔をあたしは今まで一度だって見たことがない。
…て、思ったけど、あったわ。
そうだ、思い出した。
もう、随分昔のことだけど。
藍染の刃に体を貫かれ、雛森が倒れたその後のことだ。
眠る雛森を見舞う隊長は、今とまったく同じように、とても辛そうな顔をしていた。
(何よ。じゃあ、やっぱり雛森なんじゃない)
この人がこんなに思い詰めた顔を見せるのは、あの子に何かあった時だけ。
正直病み上がりに凹みそうな話題だなあと思いはしたけれど、とりあえず目の前の隊長を落ち着かせようと、あたしは隊長の銀色の髪を片手で梳いてからゆっくり訊ねた。
「雛森に、何かあったんですか?」
けれど隊長は落ち着くどころかますます以って不機嫌になるばかり。
ばかりか、拘束する腕は緩まない。
だからあたしはますます戸惑った。
「お前…、俺が今なんて言ったか覚えてるか?」
「そ…りゃあ覚えてますよ。好きなんですよね、雛森が。てゆーか、たいちょ。そもそも告白する相手からして間違ってます」
「………」
何を今更と思いながらも、答えた傍からまたむっつりと黙り込んでしまったではないか。
だからいったい何なのだ?
対峙する先、あのひとの顔は酷く苛立たしげで。
且つ、眉間の皺は四割り増しの勢いで増えている。
(てゆーか、おでこ。青筋まで立ってますけど?)
「松本…」
「はい?」
「俺は今、ものすっげー泣きてえ気分だ」
「はあ…」
奇遇ですね。
あたしも今、ものすっげー泣きたい気分ですよ、とは、さしものあたしも言えなかった。









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あきゅろす。
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