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ゆうぐれ、とわに 1

※『夕焼けリフレイン』の続きで、『黄昏で君を見失う』の後日談



その日の目覚めは酷く不快なものだった。
先だっての虚討伐の際に対峙した、破面の一人に斬りつけられた傷がじくじくと疼き、焼けるような熱を放っていたから。
重たい瞼を無理やりにでもこじ開ける。
すぐ、間近に。
あのひとの気配を感じたからだ。
「たい…ちょ?」
凛とした冬の大気のような澄んだ霊圧。
ぼやけた視界の向こうには、高い天井。見覚えのある木目。
見慣れた景色に、此処が執務室であったことにようやくあたしは気が付いた。
(もしかしてまた眠っちゃったのかしら?)
ああ、そうだ。
まだ暫くは安静に、と云う勇音の反対を押し切って、今日は無理やり仕事に出て来たんだった。
だけど隊長は朝から隊首会で席を外していたから、お昼を前に、ちょっとだけ…って。
長椅子に横になってそのまま眠ってしまったのだ、きっと。
隊長はもう戻っていて、しかも机に山積みにされていた書類の束も、すっかり形を失くしている。
と云うことは、今はいったい何時なんだろう。
戸惑いながらも視線を流した先、あろうことか窓の向こうは薄っすら茜色。
幾らなんでもこれは、寝過ごしたどころの話じゃない。
「すみませ…あたし、また寝ちゃったみたいで」
慌てて身体を起こしかけたところで、「いい、まだ横になってろ」と。
遮るようにやわらかな霊圧に包まれた。
と同時に、くら、と激しい眩暈に襲われる。
木目から一転、視界は『黒』に取って変わった。
目の前には、死覇装の黒と羽織の白。
衿から覗く薄い鎖骨と、鼻腔を擽る懐かしいにおい。
ドクドクと脈打つ心臓の音と、あたたかな体温。
すぐに気付くことは出来なかったけれど、どうやら今、あたしは抱きしめられているらしい。
それも、隊長に。
(…でも、どうして?)
テメエは暢気に昼寝なんかしてんじゃねえ!とか、さっさと起きて仕事しろ、とか。
怒鳴られるものとばかり、怒られるものとばかり思っていたあたしは、硬直したままされるが侭になっている。
それともなんだ、これはいくら言っても治らない『サボり魔』なあたしに対する新手の嫌がらせだったりするのかしら?
それはそれでとても効果的かもしれないけれど、振られたばかり…重症を負ったばかりの今のあたしには、少しばかりヘビィ過ぎる。
「あの、たい…ちょ?」
とりあえず放して下さいとばかりに軽く胸を押し返してはみたものの、拘束はまるで緩まない。
ばかりか、逆に強く抱きしめられた。
それも、痛いくらいに。力任せに。
痛みに僅かに眉を顰めたその時のことだ。


「だから、あの…たいっ、ちょ?」
「好きだ」
「…はい?」


果たして、今聞こえたのは何だったんだろう?
ぱちくりと目を瞬かせてフル回転で咀嚼した。









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あきゅろす。
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