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3.



逸らした瞳。
躊躇と、後悔。
自らに湧く嫌悪感に苛まれ。
「…悪リィ」
毎晩の無体を詫びるように呟いて、そのままからだを起こそうとした。
…ところで、不意に呼び止められた。あの女に。
待って、と。
薄闇にも、青ざめていることがひと目でわかる白い顔。
唐突に。
突き放されたことに戸惑うように、縋る指先。
まだ、途中なのに…どうして、と。
掠れた声で問い掛けられて、嘲笑う。
馬鹿を言う。
あんな嫌々俺に抱かれていて、どうして・も糞もあるものか。
「別に。…今夜はその気が失せただけだ」
白々しいにもほどがある嘘を舌先に乗せて、身体を離して髪を掻く。
静寂に。
銀糸がしゃりりと擦れる音と、女の息を呑む気配が同時に耳を打つ。

「何か、気に障るようなことを…?」
「そうじゃあねえよ」
「なら、どうして?」

尚も女は食い下がる。
今夜は抱かねえっつッてんだ。
むしろ「ああ、良かった」と、「助かった」と。
素直に喜べばいいものを、と。
思って再び自嘲が浮かぶ。
浮かべた自嘲に女の瞳が眇められる。
倣うように身体を起こした女の肌は手にした襦袢で辛うじて前を隠しているも、白い肩もほっそりとした二の腕も腰も、薄闇の下に晒されている。
目にして触れたくならない筈もない。
何しろ熱はまだこの体内に留まっているままなのだ。
このまま床に組み敷き喰らい付いて、その身の内に吐き出したくならない筈もない。
例えこの女がどれほど俺を厭うていても。
抱かれることを望まなくとも。
この俺の前にその美しい器だけを差し出して、心はあの男の元にあるのだとしても。
そんな俺の苛立ち…情動も知らずに良くも言う。
そう思って、甚振るような真似をした。
「…じゃあ、お前は続きがしてえのか?」
俺に抱いて欲しいのか?と。
あけすけに問えば当惑したように眉尻を下げ、途端…くちびるを噛み締め俯くおんな。
そら見たことか。やっぱり嫌がってんじゃねえか、俺のこと。
白日の下に本音を晒され、突きつけられて。
冷えた心と共に、次第…身体の熱も引いてゆく。
そうして再び口にした。
今度ははっきりとした確証を込めて。

「お前、他に好いた男がいるんだろう?」と。





またそれですか?とばかりに当惑をした女を他所に、俺は小さく溜息を吐く。
「今更隠す必要はねえよ。そんなことぐれえでいちいち奉行所に訴え出るようなみっともねえ真似するつもりなんてねえし、腹立ち紛れに手代に暇を出すようなつもりもねえ」
そもそも今ここであの男に暇を出したところで、たちまちのうちにこの店が立ち行かなくなることは目に見えているのだ。
嘆息混じりに、それでもはっきり口にした、『手代』のひと言に女の顔が青ざめる。
一気に血の気が引くのを目の当たりにする。
「なんだよ、よもや俺が気付いてねえとでも思ってたのか?ガキだからって気付かねえとでも思ってたのか?」
そりゃあまた豪く高を括られたもんだと笑った俺に、女は慌てたように首を振る。
俺の言葉を否定する。
「そんな…ガキだなんて思ってません!」
そうして再び縋る。この俺に。
襦袢が落ちるのも構わずに、引き止めるように袖を捕えて縋る指先。
「と…しろうさん、は。子供なんかじゃありません」
震える声で口にして、そうして縋り付く。この俺の胸に。
自身より頭半分以上も背丈の低い、まだガキの俺の薄い胸に。
さらりと視界を覆う、金色の髪。
…その、髪を。
初めて「綺麗だ」と思ったのは、いったい何時の日のことだろう。





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あきゅろす。
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