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15.


殊更親切を装いながら、その実あたしが気に入らない…あたしの存在を疎ましく思う輩が王宮内に跋扈していることは承知の上で、これまで極力波風立てないようにとやり過ごしてきた自負はある。
悪意を牽制する術だったらお手の物のつもりだったけど、本来嫁ぐべきだった『妹』のことを持ち出されたのはこれが初めてのことだったから、思いがけずに動揺をした。信じることすら出来い程に。
疑ってしまったのだ、王様の『気持ち』を。
まさかと思って、心揺らいでしまったのだった。

――今以って王様は、本来嫁いで来る筈だった『二の姫』に強い想いを寄せられている。
――そんなことも知らないで。
――所詮は身代わりの王妃でしかない癖に。

そんな嘲り、バカバカしい…と。最初から一蹴してしまえば良かったのに。
真に受けたりなんかしなければ良かった。
まともに取り合ったりなんてするんじゃなかった。
今更のようにそんな後悔ばかりが脳裏を占める。
だけどひとつ言い訳をするのなら、今になってあの子の名前が出てくるなんて、思いもよらなかったから。
王様があの子のことをそれほどまでに気に入っていただなんてこと、これっぽっちも知らなかったから。
だからえもいわれぬ不安に一瞬足元が揺らいでしまった。
もしかして…と思ってしまったのはやはり、あの不自然なまでの『空白のひと月』があったからに他ならない。
毎日のように花を届けて貰った。
時にドレスを、宝石までをも贈られた。
それでも王様自身、あたしの元へと訪れることだけは終ぞ無かったから。
幾ら仕事が忙しいにしても、ただの一度も顔を見せることも無いなんて――心のどこかでそう思っていたことは否めなかった。
況してや嫁いで初めて謁見した際、恐ろしく微妙そうな…神妙とも云える顔であたしを見ていたことが思い起こされて、ついには自信の欠片も失くしてしまった。
いつものようにやり過ごすことも出来ないままに、悪意と嘲りを真正面から受け留めてしまったのだった。
だから不安に足を掬われた。
更にはその後、偶然にも立ち聞きしてしまった下働きの侍女達の、他愛もないおしゃべりに紛れた『噂話』があたしに追い討ちをかけた。
曰く、王宮にある王様の私室には、嫁いで来なかった『二の姫』の姿絵が今も後生大事に飾られているらしい。
今でこそ妥協して『二の姫』の姉君である王妃様と婚姻関係を結ぶに至ったようだけど、つい最近までその姿絵を前に憂いている王様の姿を見た者がいるらしい。
さすがに『二の姫』は無理だろうけれど、諦めきれない王様としては、どうやらいずれ『二の姫』に似た姫君を側妃として迎え入れる腹積もりでいるようだ。
…今となってはバカバカしいにも程がある、およそ根も葉もない噂話を…侍女達の交わすゴシップ染みた他愛ないおしゃべりを、然も『真実』であるが如く鵜呑みにしてしまうぐらいにはきっと、あの時のあたしは気が動転していたに違いない。
なあんだ、そう云うことだったのか、と。
真実を王様に確かめることもしないまま、あたしは疎まれていただけなんだ…って端から決め付けて。
忙しい中、今日も今日とてあたしの元へと足を運んでくれた王様に、八つ当たるように食って掛かった。
ひとりカラカラと空回った挙句、一方的に離縁を突き付けたのだった。
(うああああああ!!)
何やってんのよ、あたし!
バカなの?!バッカじゃないの、これじゃ大間抜けもいいとこじゃないのっ!!
勘違いも甚だしい、それこそつまらない悋気如きで多忙な王様の大事な仕事の邪魔をして、あまつさえこんなところまで迎えに来させて。
なんとゆーか…どう考えても王妃失格だ。最悪だ。
むしろ愛想尽かされても仕方ないかもと思う傍からこみ上げて来る悔恨の念。
「ごめ…なさい」
みるみる内に青ざめてゆく、項垂れるあたしを然も不思議そうに見上げる翡翠の瞳。
「何でお前が謝ってんだ?」
そりゃあ俺の台詞だろうが、と。
苦笑半分抱き寄せられた腕の中、感極まったように身を任せる。
つまらない勘違いと悋気なんぞで、大事な会談の邪魔をしてしまった…煩わせてしまった侘びを今更ながらに口にしたなら、なんだそんなことかと拍子抜けたように溜息を吐く小さな背中。
「元はと言えば俺のせいだからな。お前は別に気にせんでいい」
鷹揚にカカと笑うと、そっと右手を取られてくちづけられた。
――それはあたかも初めて出会った、あの日のように。
「では、改めて俺の妻として。この国の王妃として、共に城へと帰ってくれるな?」
念押すように問い掛けられて、頷かなかった筈もない。
「あ…あたしの方こそ。これからも、永劫お傍に置いて下さいますか?」
窺うように問い掛けたなら、ニッと笑って王様が。
「当たり前だ」
と、一瞬の間を置くことなく答えてくれたから。
繋がれた手をあたしもきゅうと握り返して、花開くように微笑んで。
「おーさま、だいすき!」
いつものようにあのひとに向けて、高らかに愛を紡いだのだった。







end.


そんなこんなでいつもの如くのバカップルオチです。最後一護どこ行った?とか言わない…orz
いっちーは空気読めるいい子なんです。気配を消してふたりを見守ってんです。「おいおいマジで頼むぞ冬獅郎」って祈ってるんです。いい子です。(大事なことなので二回言ったった!)
たまには一護視点の日乱とかもいいかな?って思ったんですが、最後まではさすがにちょっと無理があったよ、がっくし。
型破り夫婦に振り回される一護とか、機会があったらまた書いてみたいです。リベンジしたい!\(^o^)/
そんな感じで今回も、駄文に長々お付き合い下さり本当にありがとうございましたー!

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あきゅろす。
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