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14.


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「誰がお前にンなデタラメを吹き込んだのかは知らねえが」
嘆息半分、然も苦々しげに前置いた癖に。
「まあ、つっても確かに『二の姫』の姿絵が、俺の部屋に無いとまでは言わねえが」
などと存外あっさり姿絵のことを認めたものだから、当然の如くその瞬間、あたしの顔が強張らなかった筈もない。
衝撃の余り、脱兎の如くその場から逃げ出したいと思わなかった筈もない。
尤も「…けど、お前に惚れた今以って、後生大事に飾っといたつもりはねえ!」と間髪入れずに否定をされたことにより、辛うじて逃げ出すまでには至らなかった。
突き飛ばそうとしたその腕を、寸でで留めることが出来たと言えよう。
(え?てゆーか、違うの?未練たらたらに今も王宮の私室に飾って、夜な夜なあの子を想って眺めてる…って。もしかしなくても、ガセですかああああ!?)
ひとり混乱するあたしを他所に、
「いやでもそこはお前、しょうがねえだろ。てか、察しろ。何しろこっちゃ『二の姫』が嫁いで来るもんだとばかり思ってたんだぞ。…そりゃあ、一時確かに部屋に飾りもしたし眺めもしたが、あくまでお前が嫁いで来る前までの話だ。そこんとこ、勘違いだけはしてくれるなよ!?」
尚も念押すように言い含められて、戸惑いながらも小さく頷く。了承の意を示す。
それに安堵したように、徐に吐き出された重たい溜息。
「だいたいあれ、お前の妹姫の姿絵だろう?なんっつーか…いまいち処分しにくいし捨てんのもアレで部屋に置いてあっただけっつーか、こう言っちゃなんだが今の今までその存在すら忘れかけてたっつーか?ぶっちゃけお前とそうなってから夜は離宮で過ごしてるし、昼は執務室に篭りっ放しだし。今となっては俺の部屋なんざ、埃被った物置も同然っつーか…。ここ最近は足も踏み入れてねえんだぞ」
そんなんで姿絵見ながら物思いに耽るとか、どう考えてもありえねえだろ!と断言されるに至って最早、王様の言葉に疑う余地などある筈もない。
(うん。だって確かにここ暫く、王様のおとないが無かった日なんて皆無だものね)
それこそ時間の許す限り、あたしの元へと訪れて。
まだ明るい日の光の下、時にくちびるを。肌を重ねて、名残惜しいとばかりに執務に戻る。
その仕事にしたって、以前より幾分余裕が出来てきたものの、今以って膨大。
片付いた傍から増えてゆく案件と書類の山だと宰相様から伺ったのは、つい先だってのことである。
挙句三度の食事までをも極力あたしと共にして、夜は夜であたしの部屋へと渡る。
ほんの少しのおしゃべりと、軽い寝酒を一緒に楽しんで。
それから肌を重ねて眠りに落ちる。
それこそ月の障りで閨のお相手が出来ない時までも、あたしと一緒に眠ろうとするあのひとに、いったい何時ひとり私室へと閉じ篭って他の姫君の姿絵を前に物思う時間があるだろうかと問われたら、正直なところ答えに窮するぐらいには、まっこと多忙なひとなのだ。
――本当なら、あたしなんぞを追いかけてこんなところに居ていいひとじゃあないんだわ。
思い至っては、今更ながらに愕然とする。
(なんてことをしでかしてしまったんだろう!)









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あきゅろす。
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