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13.


こんな強引に距離を縮めて、勝手にあたしに触れてきて。
その癖すぐに謝るし。
酷く申し訳なさそうな顔するし。
そんな顔をされる意味も、謝られる意味もわからずに、またじわりと滲んだ涙を目に留めて、あのひとはゆるりとあたしの髪を引く。
だからますます距離は近付いて、…嗚呼。
顔を傾けたあのひとに、眦に滲む涙の粒をべろりと舌で舐め上げられる。
挙句、「だからちゃんと最後まで話聞けって」と、困った顔で窘められて目を伏せる。
距離は近いしちっとも離してくれそうもないし、それにこんな不毛な言い合いしている最中だと云うのに、何故かいつも以上にあたしにやさしいし。
ある意味いつもと全く違わぬ態度を取るから、わかりましたと頷くよりも他はない。
――そうして唐突に打ち明けられた、さっきの言葉の『本意』の欠片。
「姿絵で見ただけの『二の姫』に俺が心惹かれてたのは事実だが、ありゃあ…ただ単に、一番ナリが釣り合うからってだけの話であって、別段人となりを見て好きになったってわけじゃねえからな。そんな相手と今更どうこうなりたいなんて思ってねえよ」
…って、ちょっと待ってよおーさま!
「いい子、ですよう。あの子」
見た目は勿論のことだけど、人となりだって充分愛らしいですよ。
文句無しの王女なんですからと拗ねた口調であたしが遮れば、また困ったように小さくわらう。
そうか、お前の妹だもんなと、思い出したように口にする。
ふと吐き出した、小さな息。
「かもしれねえ。…けど、俺はお前がいいんだよ」
それからもう一度あのひとは、ごめんな…ってあたしのくちびるを塞いだのだった。
「そりゃああの時、何でお前が…って思ったのも間違いじゃないし、嫁いで来たのが予定していた『二の姫』じゃなかったことに拗ねて剥れてお前の事情も決意も全部無視して、ひとり勝手に向き合うこともしないまんま、政務に託けて仕事に逃げてたことも、お前を避けていたのも間違いじゃねえ。…けど、ちゃんと向き合って人となりを見て、そんで本当に好きになった。心惹かれたんだ、本当に。正直な話、それからは『二の姫』のことはまるで頭の中に無かった。いつだってお前のことでいっぱいだったよ。だから今じゃ嫁いで来たのがお前で良かった――そう思ってるし、今更お前と引き替えに別の女を娶りたいとも思ってねえよ」
他の王妃なんていらない。必要ない。
ただひとり、お前が傍に居ればいい。
繰り返される、砂糖菓子のような甘い懇願に。好きだの言葉に、心は震える。
止め処なくもはらはらと、零れ落ちる涙と溢れ出す慕情。
「っじゃ、じゃあ…どうして。どうしておーさまの私室に、今も大切にあの子の姿絵が飾られてなんているんですか!」
その勢いのまま、意図せず飛び出してしまった詰問の言葉。
口にしてからハッと息を呑む。
しまった…と。
思う間も無く驚いたように目を丸くした王様は。
「…なーるほど、それが『離縁』を切り出した理由か」
不穏にひと言、呟いて。
どうやら全てを察してしまったようだった。









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