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12.


「あ…相手が違います、おーさま!」
だから振り切るように目を伏せた。
距離を取ろうともがいて見せた。
けれどやっぱり王様は、抱き締めるその手を離してはくれなくて。
「違ってねえよ」
拗ねたように口にする。
頼むから少し俺の話を聞いてくれって言いながら、軽く頤に歯を立てられて、跳ね上がる鼓動。
と同時に再び重なる視線。
…しまった、と。
思う傍から瞳は囚われて、まるで聞き分けの無い子ども相手に噛んで含めるようにゆっくりと、あのひとはあたしに告げたのだった。
「俺には離縁する気も、お前を国へと戻すつもりも無い。況してや今更別の女を王妃になんて迎えるつもりは一切ねえよ。――この国の王妃はお前以外にあり得ねえ」
だから…頼むから、戻って来てくれ、と。
予期せぬその懇願に目を瞠る。
(え?ちょ…何言っちゃってるのよ、このひとってば!)
うん、あんまりにも予想外過ぎた。
構えていたのとは全く真逆のことを言われてしまって、思わず呆けてしまうぐらいには。
ナニコレ、もしかしなくともあたしの願望?都合いいだけの夢??
そんな不審が湧き上がってしまうぐらいには、ちょっと予想外が過ぎたのである。
…もしかして、なんて。
それこそ当初期待していた通りの台詞を言われてしまったようなのだけど、…うう〜ん。もしかしなくとも今あたし、このひとに何ごとか謀られたりしちゃってますかね?
一国の王を相手に不遜なことこの上ない思想なのだけど、やっぱり俄かには信じがたい…かな?
(何しろ今まさに『二の姫』への淡い恋心を打ち明けられたばかりか、代わりに嫁いで来たあたしを前に「何でお前が…」って失望したとか、開口一番しゃあしゃあのたまいやがりましたからね、このひとってば!)
だから半信半疑を隠すことなく問うていた。
「…同情ですか?」
一度は娶ってしまったから。
図らずも『王妃』として受け入れざるを得なかったから。
不本意ながらも『夫婦』として、床を共にしてしまったから。
だから情が移った?
憐れんでくれた?
押しかけ女房宜しく嫁いだあたしを、そう簡単には切り捨てられないとでもお思いですか?
同情でも傍に置いてやろうって魂胆かしらと訝った先、「…なんでそうなるよ」と。
見るもがっくりと項垂れた銀糸。
あらまあ、くるくる旋毛が愛らしいこと!
だけど項垂れた先はあたしのオッパイの上だったのだから、およそ態度はふてぶてしいことこの上ない。
『愛らしい』からは程遠い。
あ、やわらけえ…とか、ちょっとちょっと、なに暢気に寛いでますかね、おーさま!
「…あの。同情どころか、よもやまさかの『身体目当て』です?」
「だからどっちも違げえって」
即座に否定こそしたものの、苦笑半分「けどまあ、確かにこの乳は悪かあねえけどな」とか言っちゃってるし。
些かお言葉に信憑性が欠けてますよ、おーさまー。
そんな戸惑うばかりのあたしを置き去りに、尚も距離を縮める酷いひと。
「なっ…なんでちゅーとかするんですかあ!」
「…うん、悪リィ」
って、だからどうしてそこで謝るのよう!








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