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10.


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すたこらさっさとばかりに遠ざかってゆく一護の背中をねめつけながら、果たして今日何度めかの「ああもう、最悪!」を心の中で繰り返す。
少しでも気を抜けばすぐにも溢れ出しそうになる涙を必死に堪えて、こみ上げる嗚咽を噛み殺す。
(ああもう、ここまで来るとさすがに滑稽よね)
良かれと思って妹の代わりに嫁いだ先、蓋を開けてみれば夫となるひとは『噂』と違ってまだ年若く、――それもあたしより五つも年下のまだガキんちょで。
正直なところ、お互いすっごい戸惑ったけど。
あろうことか、嫁いでひと月以上も離宮に放って置かれもしたんだけど。
でもそれだって、前政権からの引き継ぎだ何だで政務が立て込んでいたからで、それこそあたしが嫁ぐ以前からとても忙しくしているらしいことを早々小耳に挟んでいたし?
だからこの新婚早々の放置プレイも、無理からぬことと納得していた。
それに、確かに放って置かれはしたものの、一度たりとも顔を見せてくれることがなかったものの。
嫁いで間もなくの頃から王様からは、毎朝花が贈り届けられていたものだから、「あ。一応気にかけては貰えているんだなー」って思ってたのよ。嬉しかったのよ。
そればかりか時折ドレスや宝石までもが贈られて来たから、例えひと月余りも顔を見ることがなかったとしても、王妃としてちゃんとあのひとに受け入れられているんだって、思い込んでた。信じてた。
――だけどホントはそうじゃなかった。
あのひとが自身の王妃にと望んでいたのは、あくまで『二の姫』であって。
あたしのことは、無論論外。
むしろただ単に迷惑な、『お邪魔虫』でしかなかったのだ。
(だって今、「嫁いで来た時は、なんでお前が…って思った」って、間違いなく口にしたんだもの)
嫁いで来たのがあの子じゃなかったことにショックを受けた、って。
確かに言っていたものねと思ってまた、胸がズンと重苦しくなる。
お願いだから今すぐにでも、この手を離して欲しいと切実におもう。
(だから帰るって言ってるんじゃない)
(離縁だって受け入れますって言ってるんじゃない)
そうして晴れて国に戻って、入れ替わりにあの子をこちらに嫁がせますからって言ってるんじゃないよ、さっきから。
なのに何でわざわざ追いかけて来たりしちゃうわけ?
すまなかった、…とか言っちゃうの?
こおおんな大国のおーさまの癖に、所詮格下小国出身の王女でしかないあたしなんぞに頭下げたりしちゃうのよ。
どうしてそんな『悔いてる』みたいな顔するの?
そんなの卑怯だ。あんまりだ。
だってそれじゃあ期待してしまう。
一護の『言い分』を信じるつもりは毛頭ないけれど、それでもそんな態度を取られてしまえば、どこか心の片隅で、期待しないわけがないでしょが。
…あれ?本当はあたしのこと、ほんのちょっとでも想ってくれている?
王妃としてこの存在を、少しでも惜しんでくれているのかしらと思って、心躍らせなかった筈がない。
(まあ結局はただの期待外れでしかなかったですけどね!)
(面と向かってはっきりと、嫁いで来るならお前じゃなくて二の姫が良かった…って、打ち明けられたも同然なんですけどね!)









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