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8.


だってホントどうすんだよ。
このまま日が暮れちまったとして、あんたいったいどこで寝泊りする気だよ。
いや、場所柄近くに寝泊り出来る城がないとまでは云わない。
だが、事前に通達も無くいきなり単身王妃サマが訪ねて行ったら、城中パニックにならない筈がない。
(それにこの様子じゃあこのひと、ここから梃子でも動かねえって感じだもんなあ)
意地でもヤツに居場所を知られたくねえって感じだもんなあ。
んじゃ、何か。
野宿か?野宿でもするつもりか!?
…いや、出来るわけねえだろ!!
ンな真似させたら最後、俺が冬獅郎に殺されるわっ!
頑固で意固地で気が強い、その癖時折頼りない顔してちらちらと王宮のある方角へと視線を流す。
そうして落胆したようにまた俯くのだから、乱菊さんが今『何』を考えているのかなんて言わずもがな。
(もしかしなくとも、待ってんだろうなあ)
無意識の内にヤツが迎えに来るのを待ってんだろうなあ、この様子じゃあ。
若しくは気に掛けている?
勢いに任せて啖呵を切って馬を駆り、城を飛び出しては来たものの、どう鑑みてもヤツに未練があるのはバレバレで。
だけど自ら戻る気持ちにもなれないんだろうな。
だから困った。大いに弱った。
乱菊さんの姿を見つけてすぐに放った伝令は、さすがにもう城まで辿り着いている頃だろうから、冬獅郎の耳にもこの場所のことはいい加減知れている筈だ。
(こればっかりは、狩猟場を警備している見回り騎士が上手いタイミングでとっ捕まってラッキーだったとしか言いようが無い)
尤もそいつも、なんでこんなところに王妃様が?!それもひとりで!馬に乗って!?と相当驚いちゃいたようだったが…。
だが、だからと云って冬獅郎自ら乱菊さんを迎えにここまで来るのは、どう考えても無理な話だろう。
(それが出来てりゃ、何も俺なんぞに後追わせずとも、さっさと自分で後を追ってただろうしな)
――何しろナリこそガキではあるものの、ヤツは『一国の王』なのだ。
ゆえに、決して建前なんかでなく、即位以来仕事は常時山積みで。
今でこそ多少の余裕が出来てきたものの、実際乱菊さんが嫁いでくる少し前まで、ヤツは寝る間も惜しんで日々の政務を精力的にこなしていたのだ。
だがその僅かな『余裕』ですら、日中乱菊さんと少しでも過ごす時間を得たいが為に、ヤツが無理して捻出しているものであると、果たしてこの目の前の美女はちゃんとわかっているのだろうか…。
いや、ぜってえわかっちゃいねえよなあ。
それではさすがにヤツが浮かばれない。余りに憐れではないか。
そう思っては、吐き出す溜息。
「あの、さ。冬獅郎の名誉のためにこれだけは一応言っとくけど、別にあいつはあんたを迎えに来るのが面倒で俺に任せたってわけじゃねえんだからな?ただ、ちょーっと今は仕事が立て込んでるだけっつーか、来たくても来れないでいるだけっつーか…」
上手く説明できねえけど、と。
もごもごと口ごもる俺を振り向きもせず、それでも乱菊さんは意外なことに「…わかってるわよ」と拗ねたように口にした。
「さっきは勢いであんな風に言っちゃったけど、宰相様のあの言葉全部が『嘘』じゃないってことも知ってるし。おーさまが今もすっごい量の政務に追われていることぐらい、あたしにだってちゃんとわかってるから」
今日だってあの後本当は、一昨日いらしたって云う東国の大使との会談予定があったんでしょ、と。
吐息混じりに零したから、俺の方こそが目を丸くした。








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